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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「マンタレイ」
居場所を失った人間の寓話

「第19回東京フィルメックス」。A PEOPLE(エーピープル)では、連日上映される作品を鑑賞、できるだけ早くレビューしていく。今回はコンペティション作品「マンタレイ」(タイ、フランス、中国)。

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ロヒンギャ難民(ミャンマーから流入してきたイスラム系住民)を題材に得た人間ドラマ。撮影監督としてタイ映画界で活躍してきたプティポン・アルンペンの長編監督処女作。

金色に髪を染めた猟師がある日、川沿いの森で胸を負傷した男を見つける。男の手当をした猟師は、やがて全快した彼と共同生活を始め、友好を深めていく。いつまでも言葉を発しない男に対し、猟師は人気歌手と同じトンチャイの名を授けた。穏やかな日が続くかと思われたが、いつものように漁に出かけた金髪の男は突然、姿を消す。猟師仲間は「海に呑まれた。探しても無駄」とすげなく説明。落ち込むトンチャイのもとに、今度は猟師の元妻が現れ、また新たな共同生活が始まる。

そのような物語の外郭はあり、決して難解というわけではないのだが、語り口が独特で、どことなく心象映像の集合体のような印象を与えている。説明映像、説明台詞がほとんどないところもこれに輪をかけており、トンチャイがロヒンギャかどうかも明示されない。トンチャイが言葉を話せない(もしくは、話さない)という設定と展開も、その意味ではかなり意図的に映る。換言するなら、映像主義の作品としてよく、美術を大学で学び撮影監督の仕事を重ねてきた監督の背景に理由を重ねやすい。

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太陽光のもとの画はもちろん、電飾を体にまとった謎の男、歓楽街のネオン、夜のとばりが落ちる直前の薄明かりなど、光、または輝きに対する采配が念入りで、しかも優しい。あれだけ光の強い土地柄なのに。フランスの電子楽器オンド・マルトノのやわらかな音色を使った劇音楽も、そんな志向に準じているとしていいだろう。映像的にささくれ立つ箇所はなく、劇的な見せ場もない。難民を題材に掲げながら問題意識が鼻につくこともなく、あたかも居場所を失った人間の寓話に昇華させているかのようだ。

題名の「マンタレイ」とは文字どおり、エイのマンタのこと。劇中では、金髪の猟師が森で掘り出す宝石の原石にマンタが引き寄せられる旨が語られているが、恐らく迷信だろう。しかし、その迷信に惹かれているように、猟師が原石を海に投げるくだりもまた、もしや寓話の一翼を担っているのかもしれない。

マンタは全長が数メートルに及ぶ巨大なエイである。一見、恐ろしい。でも、プランクトンを常食としており、性格は至極、穏やかだ。ロヒンギャも大量流入は恐ろしく映るが、同じ人間。悲劇は避けたいという思いが、この生物に仮託されているのかもしれない。

Written by:賀来タクト


「マンタレイ」(タイ、フランス、中国)
Manta Ray
監督:プッティポン・アルンペン

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー