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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「川沿いのホテル」
これがホン・サンスの遺作と言われても驚かない

11月17日に開幕した「第19回東京フィルメックス」。A PEOPLE(エーピープル)では、連日上映される作品を鑑賞、できるだけ早くレビューしていく。今回は特別招待作品、ホン・サンス監督の「川沿いのホテル」(韓国)。

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導入部。素っ気ないオープニング・クレジットに重ねて「2018年1月29日から2月14日にかけて撮影された」との説明がわざわざ語り付きで加えられる。続いて、出演者も口頭で紹介。報告書でも読むように。単なる気まぐれか、それとも? わからない。

ホン・サンス映画は例によって入口から退屈させない。いや、油断をさせない。

主な出演者は6人。漢江の近くに建つホテルに宿泊する老詩人(キ・ジュボン)と、そこへ呼ばれてくる息子ふたり、及び男性問題で傷ついた女性(キム・ミニ)とその先輩女性(ソン・ソンミ)、そしてホテルの女性従業員という面々。彼らの会話劇。

詩人がベッドの上で座っているところから映画は始まる。モノクロ映像。カラーとの切り替えはない。ずっとそのまま。理由も意味も最後までわからない。ちなみに前作の「草の葉」もモノクロ作品。

傷心女性は妻子ある男性との問題で、左手に火傷を負っている設定。最近の常連キム・ミニが演じているものだから、いらぬ想像を重ねる向きも多いだろう。それも、ホン・サンス映画の醍醐味といえば醍醐味。

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詩人は、自分が明日にも死ぬような予感を抱き、その前に顔だけでも見ようと、息子たちをホテルに招いた。次男の職業は映画監督。映画監督役が登場した。それも醍醐味。ただ、ラストの展開も含め、実のところ、お話自体には暗い影がある。軽妙が強くない。一種の遺書のような気分がある。仮にこれがホン・サンスの遺作だといわれても驚かない。たとえば、詩人が女性ふたりを「美人、美人」と褒めまくる場面。客席から笑いが起きた。個人的には特におかしくもない。もしや「ここは笑っておいた方がいいかも」のごとき不安を観客が感じ取った結果なのではないか。とりわけこの監督の喜劇的側面を好む観客が。

フィクス映像も少ない。キ・ジュボンいわく「今回は俳優が動くとカメラも動いた」。一方で、場面への関心が動く瞬間にスッと映像をズームさせる手法は変わらない。でも、その「ひょいズーム」が弾んでいない。足取りが重い。死を見つめているためか。あるいは、監督として精神的な老いでも感じているのか。我々観客は映画同様、死を目前に感じた作家に招かれた立会人なのかもしれない。

とりあえず、なんらかの作家的変容が刻まれている、もしくは始まっている作品としておこうか。次回作が気になることは確かだ。

ホン・サンスは本当に退屈させない。

Written by:賀来タクト


「川沿いのホテル」(韓国)
Hotel By The River
監督:ホン・サンス

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー