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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「轢き殺された羊」
現実と幻想の混濁、奇妙な混乱の読後感

「第19回東京フィルメックス」。A PEOPLE(エーピープル)では、連日上映される作品を鑑賞、できるだけ早くレビューしていく。今回はコンペティション作品「轢き殺された羊」(中国)。

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これまでに2度、東京フィルメックスのコンペティション部門で最優秀作品賞を獲得しているチベット出身のペマツェテン監督による長編第6作。

標高5000メートル。チベット高原北部の荒野ココシリを走る一台のトラックから物語は幕を開ける。最初から長回し。トラックが奥手の彼方へ消えるまで、フィクスの情景映像が続く。スタンダード・サイズ。振り返ってみれば、このワンショットがこの作品の全てだったのかもしれない。

イタリアのカンツォーネ《オー・ソレ・ミオ》をカセットテープで聴いている運転手の名はジンパ。

ヒゲを伸ばし、一見、むさ苦しい不潔な男。しかし、かけているサングラスは新品同様。そのジンパが途中、路傍を歩く男を拾う。その男も名をジンパと言った。両者共にラマ僧につけられた名前。巡礼でもしているのかと思ったら、サナクという目的地が彼にはあった。そこで20年前に父を殺した男に復讐を遂げたいのだと告白する。10年以上かけて探し当てたという。サナクで男を降ろしたジンパは荷物の届け先へ向かうが、男のことが気になって、なじみの女との夜もさえない。そして翌日、再びサナクへ向かう。

男の復讐の顛末は回想形式で描かれ、すべてモノクロ映像。その如何ともしがたい結果には、個人的にはピーター・イェーツ監督の秀作「哀愁のエレー二」におけるジョン・マルコヴィッチの復讐者を連想させる。

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その後、サナクを後にしたジンパは男を追って、運転中にひとり夢想にふける。このあたりから現実と幻想が混濁する。一瞬、何が起きたのかわからない。夢想が意味するところは何だったのか。そもそも、この物語は最初から現実ではなかったのではないか、等々。

実は冒頭に「夢を話しても忘れられる。夢を実行したら覚えられる」とのチベット格言が提示されている。監督いわく「映画自体がまるで夢であるかのように撮った。ふたりのジンパは表裏一体。鏡に映った両面」。事態の全てが氷解する解釈ばかりである。もっとも、そんな「答え合わせ」を抜きに映画を見終える方が幸せなのかもしれない。奇妙な混乱の読後感がこの作品最大の身上ではないのか。

監督自身が表した短編小説を脚本化しており、題名もそれに由来する。不意に轢き殺してしまった羊の魂を天に解放したいと、映画前半のジンパは奔走した。その慈しみの情だけは全編を通してブレていない。もしや、主人公のむさ苦しい相貌が巧妙なミスリードになっているのではないか。個人的には、そんなジンパがサングラスをはずすまでの物語として味わい深いチベット譚である。

Written by:賀来タクト


「轢き殺された羊」(中国)
Jinpa
監督:ペマツェテン

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー