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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「あなたの顔」。ツァイ・ミンリャンによる、
かけがえのない体験

「第19回東京フィルメックス」が開催中だ。A PEOPLE(エーピープル)では、連日、上映作品をレビュー。今回は特別招待作品、ツァイ・ミンリャン監督「あなたの顔」(台湾)。

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日本には「喜怒哀楽」という言葉がある。喜び。怒り。哀しみ。楽しみ。もちろん、人間の感情はこの四つだけに集約されるわけではない。だが顔面に表出するこの四つの起点の存在が、人間という生きもののフォルムを摑まえるためにはとても重要なのだと気づかされる。

ツァイ・ミンリャンの新作は、12人の人間の顔面だけを捉える。クローズアップの加減は一緒だが、角度は微妙に異なる。だから作品としては決してミニマルな印象はない。坂本龍一の音楽も程よくトッピングされ、画面はなめらかな凹凸を描く。

このような作風に接するとき、ひとはとかく、ドキュメンタリーなのか、アートなのか、といった不毛な問いを発してしまうわけだが、わずか数分のうちに、人間の顔面がいかなる推移を辿ることになるのか、この一点に直面するだけでも、エキサイティングと呼ぶより他はなく、ありきたりのカテゴライズがいかにつまらないものかを、わたしたちは痛感するだけなのである。

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「喜怒哀楽」を発見することに醍醐味があるわけではない。喜びと哀しみをつなげるもの。楽しさと怒りがないまぜになること。点と点を結ぶだけではなく、点以外にひろがる荒野のように途方もない感情のあれやこれやを、ありのままに享受していくだけで、この映画はかけがえのない体験になる。

わたしたちが普段、いかにひとの顔を見ていないか。見つめることだけに誘う本作の、澄みきった性急さが、作者のいかなる欲望に突き動かされてのことかはわからない。極力、職業俳優の「芝居」を排し、ときに被写体を眠らせながらも、強引なまでの「状況作り」をおこない、見つめるに足る一般人の顔面に浮かび上がるグラデーションをスクリーンに焼き付ける。単純ではあるが、まだ誰も成し遂げていなかった映画的成果がここにある。

そのことに価値があるかどうかよりも、この真新しくも、普遍的な肌ざわりを祝福したい。人間の顔面とは、かくもエモーショナルなものなのである。

Written by:相田冬二


「あなたの顔」(台湾)
Your Face
監督:ツァイ・ミンリャン

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー