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小林淳一
ホウ・シャオシェンの遺伝子
3月23日、池袋の新文芸坐で「台北暮色」のレイトショーが行われる。
また、4月17日より開始となる「台湾巨匠傑作選2021」でも「台北暮色」が上映される。
それに合わせ、昨年の東京国際映画祭「アジア交流ラウンジ」で行われた「ホアン・シー×是枝裕和」から、是枝裕和が「台北暮色」をどう見たか、その語りの一部を再録したいと思う。
この対談は、是枝裕和がホアン・シーを指名したことで実現したという。
是枝が好きなシーンとして挙げたのは、ホアン・ユエン演じるリーが自転車で水たまりの中をぐるぐると走り回る美しいショット。
「撮影監督のヤオ・ホンイーのアイデアだった」というホアンだが、「その場で撮ったシーンは普通、残さない。そういうシーンを残したことに、同業者として感動した」と是枝。
驚いたシーンとしては、ラストのエンストを挙げた。
車がエンストを起こし、大量の後続車両が進めない。
「あれは、許可とったんですか? エンストしてそのままゲリラでやったんですか?」と是枝が質問すると「ゲリラで、5テイク撮った」とホアン。
「1回だと思った。いい街ですね。東京では絶対無理。うらやましい」と是枝も笑った。
一番印象に残ったシーンとして、リマ・ジタン演じるシューが逃げたインコを探しながら街を歩く場面を挙げた。
「カメラがすーと引いていって、たくさんの緑の中でシューが歩く姿を見せていく。そのことによって、街に響いている音が聞こえてくる。この映画は何を見るべき映画なのか、納得感がありました。この映画の特徴は光と共に音なんですよね。乗り物の音、生活の音、玉すだれの音、料理をする音、人形劇の楽器の音。遠近感の設計が見事だなと思いました」(是枝)
「ホウ・シャオシェンの遺伝子」を作品に感じたという是枝に対し、ホアンは「終わってみてわかったことですが、ホウ監督の現場のやり方が自然に身についていたと感じました。そのときはわからなかったんです。“アクション”とも言わない。いつのまにか撮影がはじまっている現場」と語った。
一度だけホウ監督のCM撮影の現場を見たという是枝も「確かにいつのまにか撮影が始まっていましたね」と笑う。
「台北暮色」という邦題について、是枝はいう。
「僕も海外で自分の作品がかかるときに経験したことがあるのですが、考案されたタイトルがオリジナルの題名以上に本質を指すことがあるんです。いろいろな人が何かを探している。人だけでなく、街であり、ここでは「暮色」という言葉を使っていますが光、ということだと思うんですね。観終わった後に、監督が描きたいものを「台北暮色」というタイトルがよく表していると思いました」
ホアン・シー自身もこの邦題が気に入っているということだった。
街の映画、人々の映画「台北暮色」
3月23日(火) 19:20開場 19:40開映
池袋 新文芸坐
台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督デビュー40周年記念<ホウ・シャオシェン大特集>
4月17日(土)~6月11日(金)まで新宿K’s cinemaにて開催
配給:オリオフィルムズ
配給協力:トラヴィス