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第21回東京フィルメックス

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相田冬二


衝撃の「無聲(むせい)」からホン・サンスまで注目の7本

いよいよ開幕する<第21回東京フィルメックス>。 A PEOPLEのエリアテリトリーから、【コンペティション】【特別招待作品】計7本をセレクト、市山尚三プログラムディレクターにそれぞれ解説していただいた。

その語りおろしをお届けする。

【コンペティション】

「無聲(むせい)」(台湾) これはショッキングな作品です。
聾学校で、陰惨な虐待が行われており、それを学校側が隠蔽しようとしていた。

台南で実際に起きた事件を基にしています。
ひとりの聾唖の少女が虐待されている。

それに気づいた少年が先生に告発しようとするが、当の少女がそれを拒否。

なぜなら彼女は、聾唖者が社会に出ても幸せになれるはずがない、と思い込んでいる祖父によって長い間、家に監禁されていて、福祉団体の尽力によって、ようやく学校に通えるようになったばかりだったから。

もし、このことが明るみになれば、また自宅に閉じ込められる生活が始まる。
たとえ虐待を受けるとしても、学校にいられるほうがいい、そう訴える。

さらに映画は、このことをきっかけに主人公の少年を虐めていく、クラスの中心人物である虐待の首謀者の過去をも掘り下げていく。

なんと、そこには虐待の連鎖が横たわっていた。
ここには安易な解決は何もありません。

堂々たる演出で、何の先入観もなく観たときには、これが女性監督によるものとは思いませんでした。

ただ、振り返ってみると、コー・チェンニエンが女性だったからこそ、ここまで映画を通して告発する意志が強かったのかもしれない、と感じました。

この題材をどうしても映画化したいという想いが、もともと持っていた演出の力をさらに強めた印象を受けます。

新人監督の作品としては異例の、台北映画祭オープニング作品。
台湾映画界期待の一本ですが、本国でも公開はこれから。

賛否両論あるであろうことも含めて、楽しみです。 台風の目ですね。

「不死不休」(中国)

監督のワン・ジンは、「罪の手ざわり」「山河ノスタルジア」「帰れない二人」でジャ・ジャンクーの助監督を務めていました。

つまり、ジャ・ジャンクーが大作を手がけるようになってからの助監督で、大変有能。
ただ、撮影現場では怒鳴られ役でしたね。

演出部ではなく、他の部署が上手くいかないときも、怒られるのは彼。
インタビューなどでは温厚なジャ・ジャンクーも、現場では鬼です。

そのお詫びかもしれませんが(笑)、ジャ・ジャンクーのプロデュースで監督デビューしました。

優秀な助監督が、監督として優秀とは限りませんが、ワン・ジンはやはり優秀でした。

かつて中国でB型肝炎が蔓延したとき、患者に対してもの凄い差別が横行していた。

B型肝炎は、SARSほど警戒する必要のない病気だったにもかかわらず、この非道な差別によって多くの人々が窮地に追いやられていた。

この現実を告発した勇気ある新聞記者の姿を、彼の若い頃から描いた作品。
いま観ると、どうしてもコロナウイルスを想起してしまいますが、そのことも含めてタイムリーでアクチュアルな映画だと思います。

コロナ時代を予見していたかのような一本。
なお、ジャ・ジャンクーは出演もしていて、炭鉱の悪徳経営者を快演しています。

【特別招待作品】

「逃げた女」(韓国)(写真)

ここ数年のホン・サンスの映画は日本では配給されていませんので、この後、いつ観られるかわからないという作品ではあります。

むちゃくちゃ面白いです。
ベルリン映画祭で監督賞に輝きましたが、3大映画祭の常連だったとはいえ、メインの賞を受賞するのは初めてですね。

相変わらず普通の話を、お馴染みのズームでシーンを切り替える映像で描いていますが、今回は女性の姿が際立つ、まさに女性映画。

これまでも引き合いに出されていましたが、いよいよエリック・ロメールのような題材に踏み込んでいると思います。

夫が出張中、3人の親友の許を訪ねるキム・ミニ扮するヒロイン。
基本的には、彼女たちが失敗した過去の男性関係について語るだけ。
最後に、キム・ミニがかつての自分のボーイフレンドと再会します。

ホン・サンスはこれまで、どちらかと言えば、男性中心に物語を紡いできました。

キム・ミニの「夜の浜辺でひとり」などは例外でしたからね。
その彼がここまで女性中心の映画を撮っている。

何気ない話なのに、なぜか納得できる。
一見適当に撮っているようで、深いものが見え隠れする。
その技はかなり成熟してきて、変化も感じられます。

キム・ミニとの出逢いで、ホン・サンスはいい方向に向かっていると思うし、題材は間違いなく広がりましたね。

「海が青くなるまで泳ぐ」(中国)

文学者たちの個人体験から、中国近代史を臨む。 そんなスタイルのジャ・ジャンクーによるドキュメンタリーです。

映画「活きる」の原作者、ユェ・ホァくらいしか、日本で馴染みのある作家はいませんが、彼らの作品を読んだことがなくても、充分楽しめると思います。

これは、「中国の歴史を見る」という映画なので。
ジャ・ジャンクーはコンスタントに長編ドキュメンタリーを撮っていて、これまでは、画家、そして、服飾デザイナーにカメラを向けています。

その次が文学者や小説家だったということが、彼がドキュメンタリーで何をやろうとしているかが伝わりますよね。

「日子」(台湾)

アート作品ではなく、劇映画としては「郊遊 ピクニック」以来となるツァイ・ミンリャン作品。

ホモセクシャルな関係を面と向かって描くのは、初期作「河」以来となりますね。
彼はいま、精神的にほんとうにいい状態なのだなと感じます。

商業映画の義務から解放されて、大らかに撮っています。
それにしても、テレビ局の出資で、商業主義に縛られない劇映画が撮れた、というのは時代を感じさせますね。

露骨にセクシャルな場面があるわけではないので、テレビ放映できるんですよ。

「七人楽隊」(香港)

1980年代香港ニューウェーブの巨匠たちが集結。

サモ・ハンが1950年代、アン・ホイが1960年代、パトリック・タムが1980年代、ユエン・ウーピンが香港返還前夜の1996年、ジョニー・トーが2000年代、リンゴ・ラムが2010年、ツイ・ハークがおそらく近未来。

それぞれの香港を描いていますが、みんな撮りたいのはノスタルジックな情景です。
たとえば、すぐ上空を飛んでいく飛行機。

いまでは失われてしまった香港です。
移民の物語も重なり合い、かつての香港へのオマージュにあふれています。

ジョニー・トーがプロデューサーとなって、巨匠たちに声をかけ、実現した豪華なオムニバス。

リンゴ・ラムにとっては遺作となりました。

「平静」(中国)

かつてフィルメックスでも上映した「記憶が私を見る」のソン・ファンの監督第2作。

三分の一くらいは、日本ロケで、雪の積もる越後湯沢でも撮影されています。
ある女性アーティストの旅が描かれますが、監督自身の実体験が基になっています。

明確なストーリーはなく、ヒロインの見た目で<日常>の回復が描かれます。
ソン・ファンは学生の頃、「ホウ・シャオシエンのレッドバルーン」に女優として出演していて、ホウ・シャオシエンの影響も感じられる映画です。

ホウ・シャオシエンの映画がそうであるように、ほとんどがアドリブ。
監督が設定だけを渡して、シナリオにとらわれない演技をキャストに求めています。

監督の友人でもある渡辺真起子さんが出演、すごくプライベートな話をしています。
監督がいかに演じ手に任せながら、自分が体験したことを再現しているかがよくわかります。

スローですが、心に沁みる作品。

(なお、「平静」は市山さんのプロデュース作品で、ご本人は明言されなかったが、出演もしているそう。なお、市山さんはホウ・シャオシエン作品に長く携わってきたプロデューサーでもある)



第21回東京フィルメックス
10月30日(金)~11月7日(土)、11月22日(日)
TOHOシネマズ シャンテ/ヒューマントラストシネマ有楽町/有楽町朝日ホール

今回の記事で取り上げた作品

【東京フィルメックス・コンペティション】
「無聲(むせい)」
「不止不休(原題)」

【特別招待作品】
「逃げた女」(写真)
「海が青くなるまで泳ぐ」
「日子」
「七人楽隊」
「平静」


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