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俳優映画祭
谷口広樹インタビュー

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小林淳一


12月27日、武蔵野スウィングホールにて開催
俳優について考える一日

本年7月に行われた特集上映「長谷川和彦 革命的映画術」(企画:A PEOPLE)を主催し、12月27日には「俳優映画祭」を開催するパブリックアーツ代表の谷口広樹。「俳優映画祭」に対する想いとそこに至る経緯を語った。

これからは「インディペンデント映画」が面白い!

先日、西東京市民映画祭に参加しましたが、どのインディペンデント作品も素晴らしく、中でも、定年退職されたような方々が、ドローンやプロ仕様のカメラを使って撮影された作品があって、今後、プロとアマの境目が無くなると感じました。また、今の日本の物づくりが苦しいのは従来のピラミッド型モノづくりから抜け出せていないからです。大量生産の時はとても効率的に働いたのですが、これだけ、優秀なコンテンツが増えると、昔のようにたくさん売れないので、大組織はコストに見合わないです。これからは横のラインで少数での物づくりが増えると思います。その参考になるのが、新藤兼人監督や山本薩夫監督のような独立映画の作り方です。

山本薩夫監督の「荷車の歌」に学んだこと

この作品は山代巴さんの原作で、農婦の方々からの10円カンパで製作したものです。当初は高峰秀子さんが主演する話が来ていたそうです。ところが、山代さんが反対し、望月優子さんが主演となりました。山代さんは農婦の労苦や生き様を映像にし、後世に伝え、残したかったのだと思いますが、普通のプロデューサーは高峰秀子さんならお客がもっと入ると、単純に考えてしまいます。しかし、舞台になった布野町に実際に行ったのですが、風景は変われど、主人公のセキという女性はやはり望月優子さんが適役だと思いました。山代さんはそこを譲れなかったのだと思います。そして、そこまでキャスティングにこだわったからこそ、1000万人が見たと言われるぐらい興行的にも成功したのだと思います。

今年7月に主催した「長谷川和彦 革命的映画術」

A PEOPLEの溝樽欣二さんと出会って、長谷川監督の企画を聞きました。ATG作品や長谷川先生の作品が好きで、今回、「長谷川和彦 革命的映画術」に関わらせていただきました。
言うまでもなく、映像はもはや世界戦であり、総力戦です。サッカーと同じで、各パートが良い仕事をすればその作品は名作になると考えています。低予算であればあるほど、なおさらです。ですので、ATGの低予算で長谷川監督のお話を聞いて、当時、どのようにチームを動かしたのかお聞きしたかったです。実際に長谷川監督や主演の水谷豊さんの話を聞いて、色々なことが勉強になりました。監督が主演と一緒に風呂に入って背中を流すことも重要だと感じました。今、大手の映画の打ち上げなどは、スタッフとキャストが分かれて座るなど、とても残念な光景が多々あります。映画は皆で作っているのですから、スタッフとキャストが議論して作り上げる場を作るのは当然だと思います。

「インディペンデント映画は俳優が命」

次に仕掛けるのが、12月27日に開催される「俳優映画祭」です。なぜ、低予算でも「青春の殺人者」という素晴らしい作品ができたか。それは俳優が素晴らしかったからだと思います。水谷豊さんも原田美枝子さんも当時はそこまでメジャーではなかったと思うんです。監督の演出力もある、ストーリーも面白いですが、何といっても芝居が素晴らしかった。大手の映画に勝つにはどうするか?それはマンネリズムに陥ったキャスティングでないところで、俳優を見つけることです。電通のキャスティングデータバンクからこぼれている本当に実力のある俳優が日本や世界にいるはずだと考えています。それが「俳優映画祭」の企画の始まりです。韓国の映画やドラマが人気ですが、私たちは韓国俳優の名前を見ているのではなく、芝居の実力を観ています。インディペンデント映画はそのような俳優を起用し、大手より優れたものを作っていかなければならないと思います。

谷口広樹が考える良い俳優の条件とは何か

このような事を言うのは、多くの先輩方もいらっしゃるので、恥ずかしく、あまり言いたくないのですが、あらためて「目と声と佇まい」だと思います。尊敬するアントニオ猪木さんが亡くなりましたが、猪木さんがおっしゃっていました。「観客は俺たちの痛みに耐えている目を見ているんだ」と。その痛みに耐えている目に、その人間の人生が見えるのだと。やはり、俳優さんも同じで、三船敏郎先生、三国連太郎先生、高倉先生、勝先生など言うまでもありません。「青春の殺人者」の水谷さん、市原悦子さん、「太陽を盗んだ男」の伊藤雄之助さん。菅原文太さんもそうですね。「大地の子守歌」の原田さんは本当に目が良かったです!

もうひとつは、声だと思います。声質にもその人の人格や物語がでると思います。杉村春子先生がおっしゃったそうですが、「台詞は音」だそうです。声の音色にも人間は物語を読み取ることができ、感情を揺さぶられるのだと、そのことを肝に銘じた素晴らしい教えでした。
そして、個人的に俳優は哲学者だと考えています。物事を深く考えているから、その人物の佇まいに人間哲学が現れ、観客は魅了されるのです。他の人物になるのですから、俳優はいつも人間とは何かを考えている方々で、尊敬しています。この三要素を兼ね備えている俳優こそ、演じていること以上の世界を物語れる素晴らしい俳優なのだと思います。それぐらい素晴らしい存在なのに、日本と言う国は、俳優を軽視しているところがあり、そのような国の寿命は長くないと考えています。俳優こそクリエイティビティ―の塊で、世界中の人々を魅了する源であるからです。

当日はどんなイベントになるのか

かなりレベルは違いますが、イメージはトニー賞ですね。アメリカのトニー賞って、演劇の賞で、オープニングから楽しく、俳優がミュージカルの一部を歌ったりします。そこまではできませんが、今回、オープニングでは映画音楽の演奏を入れたり、冒頭から、お客さんが楽しめるイベントにしたいです。次に、「幕末太陽傳」を上映します。川島雄三監督の名作ですが、とにかく色々な俳優が出演されているので、勉強になります。先輩方の演技を皆で見て、一緒に議論することは勉強になると考えました。そして、午後は現役で活躍する俳優のトークショーとQ&A(質疑応答)を行います。やはり、今の俳優が置かれている状況や、一歩でも優れた俳優がこれから出てくる可能性を話し合いたいです。現在、映像の世界も世界戦且つ総力戦です。俳優は哲学者だと考えていますが、いかにそのような優れた人間を日本から出せるかが、これからの勝負だと思います。イベントの最後に第一次審査を通過した俳優たちによる課題演技の発表会です。これは日本映像史において、すでに先輩方が演じたことのある場面を演じてもらいます。それは何の作品なのか伏せています。第一次審査は「幸福の黄色いハンカチ」をしました。ただ、コンペに参加するのではなく、その後に自分の演技と先輩たちの演技を比較できるようにしています。そのことで、色々な発見があるかと。俳優映画祭はそのような“俳優”とは何かを発見する一日です。

谷口広樹
イム・グォンテク監督「風の丘を越えて」を見て、韓国に留学。
現在は「これからは市民がエンタメを面白くする」をコンセプトに活動中。
現在、戦後民主主義を問う映画「神の島」を制作中。


俳優映画祭

12月27日(火)、武蔵野スウィングホールにて開催

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長谷川和彦 革命的映画術

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