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溝樽欣二
江藤潤のラストカットに、
青春の生と死を見た
11月28日火曜、第2回俳優映画祭で上映される「帰らざる日々」(1978年)。
青春映画の名手、藤田敏八監督が描く、記憶の肖像。
藤田監督は70年代、秋吉久美子3部作として「赤ちょうちん」「妹」「バージンブルース」、そして、奥田瑛二☓森下愛子「もっとしなやかにもっとしたたかに」、永島敏行☓森下愛子「十八歳、海へ」など、いずれも優しい時代のニュアンスを切り取った、みずみずしい青春映画を撮り続けた。
しかし、その合間を縫って?手掛けた「帰らざる日々」はこれらとまったく違う。
キャバレーのボーイをしながら小説家を目指す青年、辰雄。演じるは永島敏行。
故郷の街、長野・飯田を離れて東京生活6年。同僚ホステスのアパートにヒモ同然に暮らしてしている。絵にかいたようなダメ男が帰郷するまでの列車の中で、高校時代の記憶がよみがえる。それは、高校の同級生、隆三(江藤潤)との出会い、ビターすぎる別れの記憶である。
ふたりの高校生、隆三と民雄は表と裏。
隆三は民雄にとって、憧れの男であり、兄であり、親友であり、時に抗しがたい不良少年でもある。あいつには夢がある、でも俺には何もないと。
隆三はまるで、民雄の分身であり、映画はそんなふたりの生き方を並行して描きながら、隆三の怪我と死という、度重なるその悲劇を静かに、抑制した語り口で民雄の目を通して描いている。
「記憶の肖像」とは民雄自身のことであり、分身の死によって何かが変わっていく。
藤田敏八監督の最高傑作は「八月の濡れた砂」より冷徹、「赤ちょうちん」より深く、「妹」より美しい、「帰らざる日々」だろう。当時新鋭・中岡京平の原作「夏の栄光」を映画化。主人公ふたりを取り巻く癖のある個性的なキャラクター達が響き溶け合い、映画は、そして物語は見事に淀みなく構築されている。主題歌はアリスの名曲「帰らざる日々」。青春の記憶の詩というべきか。
最後に、隆三役、江藤潤の素晴らしさについて特筆しなければならない。
ひとりの俳優がひとりの若者の生き方、その生と死を映像の中で、ただただリアルに生きること。江藤潤は繊細にかつ、ワイルドに神話の中の若者とも言える「隆三」を演じ切った。
隆三は終幕、言葉なくただただベッドの上で寝ている。これが江藤潤のラストカットだ。
著者はそこに間違いなく、青春の生と死を見た。
第2回 俳優映画祭
<第1夜>
「ションベン・ライダー」
ゲスト:榎戸耕史
2023年11月26日(日)
開場 18:30/開演 19:00
(ゲスト・トークMC 小林淳一(A PEOPLE編集長))
<第2夜>
「帰らざる日々」
ゲスト:江藤潤
2023年11月28日(火)
開場 18:30/開演 19:00
(ゲスト・トークMC:賀来タクト(映画評論家))
会場:武蔵野スイングホール
東京都武蔵野市境2-14-1スイングビル
武蔵境駅北口下車 西へ徒歩2分
料金 前売 一般2,000円 俳優1,500円
※当日 一般2,500円 俳優2,000円
ローソンチケットにて発売中
主催:パブリックアーツ
企画・運営:A PEOPLE CINEMA