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柳川
連続レビュー参

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月永理絵


重さと軽さ

「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」のチャン・リュル監督最新作「柳川」。4週連続で視点を変えてのレビューを掲載する。その第3回。

一人の女を真ん中に据え、男たちは互いを牽制しあい、とぼとぼと歩きつづける。「柳川」のほぼすべての場面に見られるその構図を、チャン・リュル監督はいたく気に入っているようだ。

前作「福岡」(20)でも、居酒屋を営むクォン・ヘヒョと、彼に会うため韓国から福岡にやってきた古書店主ユン・ジェムンの隙間には、二人より明らかに若いパク・ソダムがぴたりと収まり、彼らの間を取り持っていた(実際に男たちがとりあうのは、すでにこの世にはいなくなった別の女ではあるとしても)。「春の夢」(16)では、父の介護をしながら一人で酒場を営むハン・イェリのそばで、彼女に憧れる三人の男たち(ヤン・イクチュン、ユン・ジョンビン、パク・ジョンボム)がいつもうろうろと歩きまわり、「慶州 ヒョンとユニ」(14)では、男二人に挟まれた女が夜の古墳群を散歩していた。

一見軽妙で滑らかな語り口のようでいて、「柳川」という映画がどこか得体の知れない不穏さを漂わせるのは、この男女の構図に原因がある気がする。複数の男たちのなかに放り込まれた女は、たいていの場合、マドンナとして崇められるか、奔放さをなじられるか、どちらにせよ、不均衡な関係性をつくりだすからだ。

「柳川」では誰の目にも明らかな三角関係、あるいは四角関係が形成される。地名と同じ「柳川(リウ・チュアン)」という名を持つ女(ニー・ニー)は、いわばファム・ファタルのような人物として登場する。チュアンは幼馴染のチュン(シン・バイチン)と昔恋人同士だったが、彼の弟ドン(チャン・ルーイー)に想いを寄せられ、さらに以前住んでいたロンドンで出会った宿の主人、中山(池松壮亮)からも好かれているらしい。数十年ぶりに再会し相変わらず自分たちを魅了するチュアンを、ドンとチュンの兄弟はじとりした目で見つめ、「軽い女」だ「冷たい女」だと陰口を叩く。欲望と嫉妬がないまぜになった視線に気づきながら、チュアンは何食わぬ顔で男たちの間を漂いつづける。少なくとも、そう見せようとしている。

この映画に出てくる男たちはみな、過去の何かに足を取られ、前に進むことができずにいる。ドンとチュンは、それぞれにチュアンへの想いに引きずられ、中山は過去に自分がした行いとその結果に囚われつづける。過去への未練と後悔が、彼らの足取りを重くする。一方チュアンは、柳川にたどり着くまで次々と住む場所を変え、そのたびに付き合う男も変わってきたらしい。男たちがチュアンを妬ましく感じてしまうのは、彼女の流浪的な生き方にどうしようもなく憧れるからだ。

たとえばホン・サンスが、つねに女と男の恋愛関係を描きながらいかに重苦しい「情」のドラマから離れられるかを試行しているのに対し、チャン・リュルは、軽やかに移動しつづけながら、それでもやはり「情」の重さに引きずられ立ちすくむ人々を描くことに興味があるようだ。

未来がやってこないと突きつけられたドンは、今度こそ過去から逃れ、新しい場所へと移動しようと決意したはずだ。冒頭、病院の喫煙所に座り込んだあと、彼に話しかけられた女性が颯爽と画面の外に消えていったのを真似するかのように、ドンは、あらゆる場面で画面の中から消え去ろうとする。居酒屋で兄弟二人が飲んだときも、柳川の宿についた直後も、三人で道を歩いていても、彼はいつも画面の中からするりと姿を消す。柳川という水辺の町に来たのは、川を渡る船のようにすいすいと漂い続けたいと願ったからだ。だがカメラは決して彼を画面の外に放り出さない。彼が行く先と、他の二人がいる場所とをあっというまにつないで見せてしまう。

無責任に、軽く、ただ流れに任せて進んでいく。これは、そんな夢を見た男の物語。軽妙な喜劇の主人公を目指しながら、彼の足にはしっかりと重りが付けられ、ずるずると現在、過去に引き戻される。そもそも彼が憧れた自由で奔放な女もまた、ただ流れ流れて生きてきたわけではない。誰ひとり、本当にこの現実から逃れられないのだ。それでも懸命に重りから逃れ、あらゆる場所から逃れつづける彼の歩行と浮遊を、今はただじっと見つめていたい。


「柳川」

監督・脚本:チャン・リュル
出演:ニー・ニー/チャン・ルーイー/シン・バイチン/池松壮亮/中野良⼦/新音
2021 年/中国/112分
配給:Foggy/イハフィルムズ
12月30日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
12月16日(金)よりKBCシネマにて福岡先行公開

「福岡」
「群山」

12月23日(金)より新宿武蔵野館(東京)にて一週間限定公開
12月23日(金)よりKBCシネマ(福岡)、12月30日(金)より横浜シネマリン(神奈川)ほか順次公開

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