photo:MEGUMI
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相田冬二
いま、演じろ、って言われても、できない
在日インド人監督、アンシュル・チョウハンの「コントラ KONTORA」の大きな功績のひとつに、円井わんという女優の発見がある。
久しぶりに、ほんとうに久しぶりに、スケールの大きな演じ手があらわれた。
そのエネルギーは、どうか、モノクロームの銀幕でふれてほしい。
ここでは、彼女のことばだけを、お伝えする。
紹介しよう。
これが、円井わんだ。
*
アンシュル(監督)は、中学生の頃の私を投影して(役を創って)くれました。
全然、英語わかんなかったから、Googleの翻訳機使って、たくさん話したな。
(アンシュルの前作)「東京不穏詩」にはクレイジーなキャラクターがいて、(気持ちを)持っていかれたので、『あれよりイカれた役をちょうだい』ってお願いして。
(森であるものを)掘るシーンは、感情が爆発して、過呼吸が止まんなかった。
映画を観た親に言われたんですよ。
『あれ、中学のときのわんだよ。いいのか、よくないのか、わからないけど、演じるって感じがしなかった』って。
演じてるときは、ソラ(主人公の名前)が何も考えてないように見えたら困るな、って思っていたけど、映画観たら、意外に人間らしいなって思った。
思ってても外に出ないことって、ひとは多いから、ソラは自分を解放できてて、うらやましいなって。
撮影中は、ソラとずっとしゃべってた。
『どうして、そんなことができるの?』
『だって、自分は自分じゃん』
『わかった。じゃ、明日もよろしく』
毎晩、そんな感じ。
ソラ自身のことを信じきれていた。
撮影が終わってからも、ソラという単語、聞くだけで反応しちゃってた、自分の名前、忘れてた。
いま、演じろ、って言われても、できない。
いま、観ると、すごいな。
パッションがすごいな。
ソラは、パッションがすごいな。
いまは、もうソラと対話することもないから、ほんとにすごいなって思う。
そのときにしかできないこと?
あります、絶対あります。
これはもう、どうしようもない。
初心者って、無敵ですよね。
でも、それを求めつづけられるのは大変で。
場数を踏んで、経験を重ねていくと、無敵なままではいられない。
生々しさ。
こいつ、慣れてるな、っていう芝居にはしたくない。
ぼそぼそしゃべったりするから、録音さんに『もっと声、張って』って言われることもあって。
もちろん、それはなんとかしなくちゃいけないとは思ってますが、そのひと(自分が演じる役)と画面の中でどう生きるか、考えてばかりいると、そうなっちゃうんですよね。
好きなようにやって、と言ってくださる監督もいらっしゃいます。
少しずつ、信頼してもらえるようになってきたのかなと思います。
このままでいいんだ。
いまは、そう思えています。
どうにかしよう、じゃなくて。
自分自身を信じて。
この容姿と、この声と、このなんかヘンな性格に感謝しつつ(笑)。
あ、でも、私、もともと、こんなに声、低くなかったんですよ。
伊藤沙莉さん(円井とは映画「タイトル、拒絶。」で共演)って声、低いじゃないですか。
羨ましすぎて。
声、低くなりたいなって、お酒、めっちゃ飲んで、タバコ、吸ってたんですよ。
だんだん低くなって、地元に帰ると、友達からも『そんなに声、低かったっけ?』って言われて、よし! もっと低くしよう! と。
声が高いの、コンプレックスだったから。
楽しいんですよね。
マジで。
(自分は)どれだけできるんだろ、っていうのが課題であり、楽しみであり。
え?
いまは、あんまりお酒飲んでないです。
でも、声は低いままですね。
いまは、歯を健康的にしようと思って、そこに向かってます。
昔、自分のことが嫌いだったんです。
だから、役者して、よかったと思います。
18、19(歳)で始めた頃は、自分が嫌いで、人間も嫌いで。
オーディション行っても、むちゃくちゃナメたこと言ってた。
自己紹介してください、って言われて。
『円井わんです、太陽嫌いです、人間も嫌いです』
太陽、嫌いだったんです、明るいの嫌いで。
でも、「コントラ KONTORA」撮った頃ぐらいから、ひとのことが好きになって。
芝居上で、ひとと【話をする】のが、すごく楽しかったんです。
こんなに気持ちいいんだ、みたいな。
(芝居が)うまくハマってるときは、相手のことも愛おしいし、演じているキャラクターのことも愛おしくなってきて。
自分自身に、そのことが浸透していくと、(相手が演じているキャラクターではなく)相手自身に浸透していくんですよ。
ひとと【対話】しなきゃ、芝居はできないから、ちゃんとコミュニケーションとらなきゃって。
ひとが嫌いだとか、言ってる場合じゃないなって。
相手を大事にできると、自分も大事にできる。
性格変わりましたよ。
いまは、いろんなことが愛おしくて仕方がない。
芝居はコミュニケーションだと思います。
一人芝居でも、何かしらと【対話】してると思います。
監督・脚本:アンシュル・チョウハン
出演:円井わん/間瀬英正/山田太一
2019年製作/143分/日本
配給: リアリーライクフィルムズ + Cinemaangel
©2020 Kowatanda Films
3月20日(土)より 新宿K‘scinema
そのほか全国順次ロードショー