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photo:MEGUMI

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アンシュル・チョウハン

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相田冬二


正解はないけど、でも、こういうことはあるよね

在日インド人監督、アンシュル・チョウハンの「コントラ KONTORA」は、人間と人間のコミュニケーションをめぐる、簡潔で豊かな考察である。

祖父を失った女子高生が、後ろ向きに歩く身元不明の男と出逢ったことから、すれ違い続けていた父親との関係性を見つめ直す。

まず、鮮やかなのは、後ろ向きに進む謎の男の存在だ。
モノクローム画面の中で、人間が後ろ向きに歩いたり、走ったり、転んだりするだけで、フィクションは現実の生々しさを獲得する。

これは初めての感覚だ。
映画にはまだまだ可能性が秘められていることを知る瞬間。

チョウハン監督はビジュアリストだ。
フィクションをビジュアル化することで、それは現実のものとなる。

「後ろ向きに歩く人の話なんてしたら、笑われるかもしれませんよね。
けれども、それをビジュアルにすることによって、訴えたいものを描けたと思っています。

YouTubeで、イギリスに住む後ろ向きに歩く人の存在を知りました。
そこでは、単に変わった人、という紹介の仕方でしたが、よくよくリサーチしてみると、彼は交通事故で家族を失っており、家族の命を奪った犯人の乗る車をずっと探していることがわかったんです。

車のナンバーを見ることに取り憑かれて、精神的に病んでしまっていた。
おそらく、過去にしか向かえないからこそ、前に進めないのではないでしょうか。

その後、世界中に、後ろ向きにしか歩けなくなった人がいることを知りました」

後ろ向きに歩く男を見ていると、見ている側の時間も変容する。
映画は、時間芸術だ。

よくある逆回転や速回しではない。
リアルな後ろ向き移動は、映画の時間を変容させる。

「導入にあたっては、他の映画で、こうしたビジュアルが既に存在していないか、調べました。

なかったので、取り入れたんです。
身体的に前に進めない男性と、精神的に前に進めない女の子を、重ね合わせることができたら、と考えました」

少女は、祖父の慰留品から、戦時中のものを発見する。
遺品のゴーグルを装着しながら、兵士として戦争に赴いた当時の日記を読むことで、物語は越境する。

そう、今度は、ヒロインがゴーグル越しに遺された文章を読むことで、現実がフィクション化するのだ。

これもまた、ビジュアリストのマジックである。
これは、インディーズ映画であり、アートフィルムだ。

なのに、ここまでエキサイティングな高揚感にあふれていることに感動する。

「実は、別な企画が、社会規制上の問題で頓挫してしまいました。
それなら、別な方法で、描きたいものを描くぞ! と思った。

既成概念に反する気持ちは、ありましたね。
なので、映画的にあらたしいことをやろうというよりは、憤りがああした描写を生んだのだと思います」

つまり、監督自身が、後ろ向きに歩く男でもあるのだろう。

「タイトルは、コントラディクション(反対)からの発想です。
ただ、伝えたい関係性は、日本だけでなく、世界の人々に通ずることです。

僕自身、10代の頃は、父親とどう接していいかわからなかったし、お父さんもそうだったと思います。

そして、10代の頃は社会から抜け出したいし、ルールから外れたいものです。

簡単なことです。
お互いのことが理解できない者同士がいて、でも、どちらもその理由がわからない。

なんで、親と素直に話せないのか。
誰もが思いあたることです。

観客に問いかけたいのです。 正解はないけど、でも、こういうことはあるよね? と」

日本に住んで9年だという。

日本で映画を撮るのは自然なことだと話すが、普遍的なテーマを、アヴァンギャルドでエモーショナルな手法で映しとるありようは、やはり佳き逆行を示している。

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「コントラ KONTORA」

監督・脚本:アンシュル・チョウハン
出演:円井わん/間瀬英正/山田太一
2019年製作/143分/日本

配給: リアリーライクフィルムズ + Cinemaangel
©2020 Kowatanda Films

3月20日(土)より 新宿K‘scinema
そのほか全国順次ロードショー


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