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相田冬二
これが、21世紀の未知との遭遇だ
「宇宙探索編集部」というタイトル。過去と現在を交錯させた序盤のコミカルなシークエンス。そして、フェイクドキュメンタリーを思わせる擬似・臨場感の醸成。
それらが、よく出来ているからこそ、あなたは最初、勘違いするかもしれない。たとえば、ガジェッド感満載でSFフレーバー強めのファーストフード的な映画なの? と。
廃刊寸前のUFO雑誌の編集部。孤独に宇宙人の存在を信心する編集長タン・ジージュンは決意する。幾つかの情報が重なり合い、時は満ちた。お気に入りの宇宙服を映画の撮影班に売り払い、それを資金に探索の旅に出るのだ――。
ツッコミ役で腐れ縁の古女房のような編集部員チン。酒好きの気象観測所員ナリス。『宇宙探索』のファンだというボランティアの女の子シャオシャオ。適度にキャラ立ちした旅の同行者たちも、漫画やアニメーションを想起させる。あなたはもう一度、思うだろう。これって、ちょっと年齢層高めの部活系ロードムービーなんじゃないの?
ジャンル映画に感染しすぎだ。
あなたの思い込みは、全5章形式の映画が、みっちりと、ゆったりと、独立独歩進んで行く過程に同行することで、あれよあれよと解き放たれていくだろう。かさぶたが気がつかないうちに剥がれていたように。わたしたちは、いつ間にか、映画というものだけが到達しうる時空の只中に迷い込み、理由も分からぬまま笑みをダダ漏れさせている。
ホドロフスキーほど野蛮ではない。リンチのように強引ではない。だが、ビー・ガンのごとく宇宙が周遊している。そして、アピチャッポンの瞑想と覚醒が忍び寄る。そんな映画時空に辿り着いては、また後にする双六の遊戯性はどこまでもチャーミングで、いつまでも優雅だ。
本作が、先行する映画次元系作品群と一線を画するのは、狂気が匂わないことだ。アピチャッポンにもビー・ガンにも漂っている狂気の香りがここにはない。かと言って新鋭コン・ダーシャンがシンプルなエンタメ派とは到底思えない。
ひとりのドン・キホーテの道行きを、狂気を介在させずに物語ること。
この困難に挑むことこそ、真っ当なジャンルムービーからも、作家主義映画という名のジャンルムービーからも逃走することだという確信が、この今年33歳の監督にはあるのではないか。
旅の途中で、鍋をかぶった少年スン・イートンが登場する。共同脚本家ワン・イートンが演じるこの魅力的なキーパーソンは、何度も何度も気絶する。その現象から発信されている信号=サインをどう受けとるかが、この映画の分かれ目となるが、同時に、わたしたちにはどの道を往ってもいい自由が与えられている。
帰納法には完全に背を向けながら、それでも大いなるエモーションに辿り着くこと。
タン・ジューションの旅が、コン・ダーシャンの旅になり、わたしたちの旅になる。漫画のコマ割りを思わせるデフォルメの効いたカットつなぎ。口元だけをアップにするような小気味良さ。坂道を転げ落ちていくような変拍子で裏っ返しの時間軸。分裂しながらも楽しげなリズム。
クラシック名曲を駆使し、過去と未来を反転させるようなダイジェストと省略のタペストリーを編み上げるシークエンスが何度かある。それは、終わりゆく章から来るべき章への橋渡しのようでもあり、映画が一つの場所に止まることを拒否するお口直しのようでもある。
これが、21世紀の未知との遭遇だ。
宇宙探索編集部
監督:コン・ダーシャン
出演:ヤン・ハオユー/アイ・リーヤー/ワン・イートン
原題:宇宙探索編輯部 英語題:Journey to the West
2021年/中国映画/118分
配給:ムヴィオラ
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10月13日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開