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review

ひとつの太陽

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暉峻創三


2時間半では収まり切らないほどの劇的濃度を持っている

中国語圏映画のアカデミー賞とも称される、台湾の金馬奬。

その昨年(2019年11月)の回で、最優秀作品賞ほか、監督賞、主演男優賞など計5部門で最優秀賞に輝き、さらに観客賞まで手中にするなど、歴史的な高評価を得たのが「ひとつの太陽」だ。

監督は、「停車」(08)、「4枚目の似顔絵」(10)、「失魂」(13)、「ゴッドスピード」(16)と、これまでも作る映画に駄作なしの創作活動を展開してきたチョン・モンホン(鍾孟宏)。

けれど「ひとつの太陽」は、そんな彼の充実した作品世界がさらなる高みに達したことを告げる、新時代の一作となった。

語られるのは、どこか是枝裕和も好んで題材にしそうな、ある家族の話だ。
自動車教習所で教官を務める父、美容師の母、そして彼らの長男と次男の、4人家族。

一見、どこにでもいそうな一家の姿は、しかし次男がひょんなことで傷害事件を起こし少年院に入ったことを動機として、平衡を失い、劇的な緊張を帯びはじめる。

鍾孟宏は、これまで必ずしもヒットメイカーという立ち位置にいるわけでもないのに、台湾映画の監督としては意外なほどスター性のある役者を好んで起用してきた。

チャン・チェン、チャップマン・トー、ジミー・ウォング、ジョセフ・チャン、マイケル・ホイといったスターたちだ。

この点でまず、「ひとつの太陽」のキャスティングは、監督の創作歴の新たな一頁の始まりを実感させる。

家族ドラマである本作に敢えて一番の主役を見出すなら、それは一家の父ということになる。
が、その役に迎えられたのは、まさかのチェン・イーウェン(陳以文)だったからだ(そして彼は誰もの予想を超える名演を見せ、金馬奬で最優秀主演男優賞を受賞した)。

エドワード・ヤン監督作品をはじめ多数の出演歴を持つが、基本は映画監督。
役者として起用される場合は、大概が脇役だった人である。

それ以外のキャストも、明らかにスター性や話題性は二の次にした、適材適所のキャスティングが行われている。

この新たなキャスティング・ポリシーが、チョン・モンホン(鍾孟宏)映画の風格に新風を吹き込んだのは間違いない。

ややフィクショナル、作為的な傾向もあった旧作群から一転、たまらないリアリティ、地に足を下した感じが主調音に躍り出てきた。

父役にチェン・イーウェン(陳以文)を起用したことは、同時に作品構造の本質をも照射する。
なるほど粗筋を書けば父を骨子としてまとめられる映画ではあるが、実のところ本作は、むしろ多中心的であること、言い換えるなら主演級でクレジットされるチェン・イーウェン(陳以文)ばかりに光が当たらないことが、重要だった。

描写の視点は、どの登場人物にも偏らずに適度な距離を取る。
そして観客は、ある主人公だけに共感するのではなく、小さな役も含め、出てきたすべての人に共感をする。

そんな構造を持った作品を、おそらく監督は目指していた。
一家の中で、物語上唯一、先に姿を消すのはグレッグ・ハン演ずる長男だ。

でも彼のことは、父や次男の存在に負けず劣らず、長く、重く、見た人の心に残り続けるだろう。

物語の主旋律からは脇の位置にいる彼の描写に、多くの美しい場面と美しい時間が用意されているからだ。

なかでも彼とウェン・チェンリン(温貞菱)演ずるガールフレンドの関係の描写に映画の中でもっとも美麗な瞬間を割り当てていることが、作品に多層性と広がり感をもたらした。

小さな家族の、極めて限定された一時期の人生物語。
それでも原題を「陽光普照」と名づけられたこの映画は、2時間半を越える上映時間を持つ。

だが、あっという間の2時間半だ。

中心人物一人にだけ光を照らすのではなく、家族のすべて、そして家族の誰かに関りを持った人の人生にまで普遍的に光を当て、祝福しようとした本作は、実のところとても2時間半では収まり切らないほどの劇的濃度を持っている。



「ひとつの太陽」

監督:チョン・モンホン
出演:ウー・チエンホー/チェン・イーウェン/コー・シューチン
2019年製作/156分/台湾
原題:陽光普照  A Sun

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