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写真右 ホン・ウォンチャン

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ホン・ウォンチャン

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相田冬二


いきなり自分の子どもの存在を知って、そこからどうしたらいいのか

ナ・ホンジン監督の二大傑作「チェイサー」「哀しき獣」の脚本家として知られるホン・ウォンチャンの監督第2作「ただ悪より救いたまえ」は、目の覚めるような快作だ。情が力強く牽引するドラマツルギー、アートに接近するジャンル映画への狂おしいほどの憧憬。それらが渾然一体となりながら、シャープで野太い一撃を喰らわせる。

――エキサイティングでエモーショナルな映画をありがとうございました。思いがけないところへと到達するこの救出劇は、ひとつの旅とも言えます。その旅の出発点に東京を選んだのはなぜですか?

今回の映画に登場する人物たちは、私たちが日常で目にすることのない、普段なかなか出会うことのない人たちです。こういう人物が画面に現れると、作為的に人間を作ったと思われる。その懸念がありました。映画の中に、なんとかリアリティを持たせて登場させたかった。

私たちにとっては未知の存在。だったら未知の空間から登場させる必要があると考えました。では、どこにするか。悩みましたが、日本がいいと思いました。ひとりの男は在日三世、もうひとりは韓国から逃れて日本にいる設定にしました。

この作品はアクション・ノワールのジャンルに相当すると思いますが、昔もいまも私は日本のノワール作品(ヤクザ映画)が大好きなんです。ノスタルジーも感じますし、たくさんの影響も受けています。それもあって、この映画のスタートでは日本を背景にしたかったんです。

物語の発想は、韓国に伝わる怪談話めいたエピソードです。ある若い夫婦のあいだに生まれた子どもが、預かっていたベビーシッターと共に消えた。さんざん探してみたら、そのベビーシッターが子どもを連れて他の国に行っていた。しかも目的は臓器密売だった。若い夫婦はどうにか取り戻すために、あちこち彷徨っていたそうです。
w これは本当に劇的な物語だし、私たちの日常生活の中でも起こり得る話だと思いました。

――あなたは、フィクションにリアリティを与えることに心を砕き、またリアルをいかにフィクション化するかにも腐心しているのですね。その相互作用が、あなたの映画にある迫力を呼び込んでいると感じます。

ありがたいご指摘です。映画の中にリアリティを持たせることは、非常に重要だと思います。映画を構成するためにはさまざまなアイテムが必要ですが、最も大切なことの一つだと考えています。

映画のトーンを維持しながら、芸術として体感させつつ、作品を観せたい。この想いが強いので、そのためにはどうすべきか、いつも悩んでいます。

この「ただ悪より救いたまえ」は、前作「オフィス 檻の中の群狼」に登場する人物より、もっともっと非現実的です。架空の人物に設定を与える作業もとても大変でした。ただ、観客にとっては、そこを上手く作れば、この世界観の中にはこんなキャラクターもいるのだ、と納得してくれる。だから、そこが鍵になると思います。

見慣れない人物も、拒否感なく、映画の中にしっかり定着させることは可能です。難しいことですが、方法はあるし、そのさじ加減に留意することこそ、監督の役割でもあるでしょう。

全体的なトーン&マナーをしっかり築くために、たとえば、次のようなことをしています。主人公が降り立つタイで、何人かの韓国人が彼の周りにいますよね。タイの韓国人。できれば演じるのは知られていない人がいいと思いました。演技経験はあるけれど、新人に近かったり、まだ媒体にほとんど登場していない演者を起用しました。これも、自分なりのリアリティの追求です。見慣れないもののほうが、本物に近づくのではないでしょうか。

――なるほど。主演のファン・ジョンミンは作品によって変幻する俳優ですが、今回も驚かされました。監督は、彼のどんな演技をキャッチしたと思いますか。

ファン・ジョンミンは本当に様々な演技のカラーを持った俳優で、何よりも骨太なイメージがありますよね。これまで彼が演じてきた役は、男性性の強いマッチョな役、家長制度の韓国ならではの男性キャラクター、そして老人の役まで幅広い。

今回は、彼があまり演じてこなかった父性愛を表現するキャラクターです。主人公は、どん底にあって初めて、自分に実子がいたことを知る。そこから父親としての意志を見せていく。いきなり自分の子どもの存在を知って、そこからどうしたらいいのか。ある種の恐怖心も含めた父性愛を彼は演じてくれました。考えてみれば、これは普通の父性愛ではない。難しい役です。

自分の感情を抑えた、冷たい印象のキャラクターですよね。私が望んでいたのも、落ち着いたトーンの静かな人物でした。ファン・ジョンミンと撮影前に話したとき、彼はこの点を既に認識していた。こちらがあえて注文しなくても、あのように演じてくれたのです。

感情を表に出す芝居は簡単です。しかし彼は、子どもに初めて逢ったときも、抑えた気持ちはそのままにして、その感情を維持しながら、力強く演じてくれた。また、あるときは、その力も抜く。しかし、落ち着いたトーンは一貫しています。

観客はすぐには共感してくれないかもしれない。しかし、これは本当に素晴らしい演技です。俳優にとっては抑えた演技のほうが難しいのです。歌手の場合もそうでしょう? 高音で思いっきり歌い上げて、声を張り上げていると、誰もが上手いなあと感嘆する。しかし、抑えた歌い方だと、はたして上手いのかどうか判別できず、その演技に気づけない。

ファン・ジョンミンは一切、観客に目配せすることなく、抑えたトーンの中で様々な感情表現を見事に演じきってくれたと感謝しています。

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「ただ悪より救いたまえ」


「ただ悪より救いたまえ」

監督・脚本:ホン・ウォンチャン
出演:ファン・ジョンミン/イ・ジョンジェ/パク・ジョンミン/白竜
2020年/108分/韓国
原題:Deliver Us from Evil
配給:ツイン

12月24日(土)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開


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