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相田冬二
コロナ以後だからこそ、のシンクロニシティ、未来の黙示録
「新感染 ファイナル・エクスプレス」で、韓国映画史を塗り替えるほどの大成功をおさめたヨン・サンホ監督。
興行、批評を共に制した辣腕は、アニメーション監督の実写初挑戦作品ということさえ忘れてしまうほどだった。
監督自らが再度メガホンをとった続編「新感染半島 ファイナル・ステージ」が、いよいよ日本でも公開される。
アニメ作品のときとは全く異なるアプローチで「新感染」を完成させ、驚かせた監督だけに、オーソドックスなPART2になるはずもない。
列車という移動する密室を舞台にしていた前作から一変、ゾンビの街へ人生の復活を賭けて乗り込む人々のエモーショナルな物語が展開。
起死回生とゾンビもの、という想定外の発想こそ、ヨン・サンホのオリジナリティそのものであろう。
「『新感染』のときに、ロケハンでいろいろなところを周ったのですが、ある廃屋を見た瞬間に、今回のアイデアが浮かびました。
『新感染』で描いたのは、アポカリプス(黙示録)の初期段階でしたが、本作の舞台は感染爆発が列島を襲ってから4年後の世界。
なので、ゾンビも変種のゾンビになっていると考えました。
希望のない人間こそがゾンビなのだと想定し、このような構造と世界観にたどり着きました」
監督が廃屋を見たときに直感したのは、ゾンビではなく人間だった。
希望を失った人間こそが、ゾンビ。
それは敵対すべき存在ではなく、この世界を新たにやり直すための「まっさらな同志」なのだ。
だから、この映画は傷つき、へこたれている、すべての人間たちへの力強いエールとなっている。
コロナ以後だからこそ、のシンクロニシティ。
先見性、予見性に満ちた「未来の黙示録」が、ここにはある。
「この作品を作っているときは、まさか世界がこのようになるとは思っていなかったです。
ここでのテーマは〈孤立した、絶望的な世界の中で、どのような希望を見つけられるか〉。
確かに、いまのこの時代に適したテーマなのかもしれません。
クリエイターとして、たまたまタイミングが合致しただけです」
この続編は、あの名作からインスパイアされたものだという。
「特に参考にした作品のひとつに、大友克洋さんの『AKIRA』があります。
アニメーション映画ではなく、漫画のほうです。
コミックでは、ポスト・アポカリプスを背景とした<ネオ・トーキョー>にアメリカの特攻隊が潜入してくるエピソードがあり、こういった視点を取り入れています」
大友克洋もまた、漫画家であり、アニメーション監督であり、実写監督でもある。
ヨン・サンホとの邂逅は、映画史的必然だったと言えるだろう。
さて、ヨン・サンホは、これで、それぞれテクスチャがすべて異なるゾンビ・サーガ3部作を撮り上げた監督となった。
「アニメーション映画『ソウル・ステーション パンデミック』は寓話的で残忍なブラック・コメディを作ろうという気持ちで取りかかりました。
『新感染』は、それとは全く違うものを作ろうと考え、結果的に二つの作品はカラーも規模も異なる作品に仕上がり、多くの人を驚かせることになりました。
今回も、全然違う作品にしたかったし、結果、独特なシリーズになったのでは、と個人的にも満足しているんです」
監督:ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン/イ・ジョンヒョン/クォン・ヘヒョ
2020年/116分/韓国
英題:PENINSULA
配給:ギャガ
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2021年1月1日(金) TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー