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「韓国に“中2病”という言葉があります。その年頃の子どもが感情面でとても敏感になることをからかう感じで使う言葉ですが、その時期が過ぎて大人になれば冗談のように話すことができても、実際、私たちがその時期を振り返ってみたとき、その当時は冗談では済まされないことだったわけですよね。その時期に、大人たちが経験するのと同様、孤独、悲しみ、恐怖、喜び、寂しさなど、普通に感じるさまざまな感情を子どもたちも同じように感じるんです。大人になれば感じ方も鈍くなりますが、子どもたちにはもっと生々しく感じる。私は“中2病”という単語の風刺的な部分を真面目に描いてみたかった。ひとりの少女の成長物語を、英雄の一大叙事詩のように大きな絵として描いてみたかったんです。女子中学生の本当の顔を、可愛くて、優しくて、何も知らない無垢な女子中学生ではなく、いろいろわかっていて、つらくて、寂しくて……そんな本当の顔を持つ女子中学生を描写したかったんです」

1982年生まれの女性キム・ジヨンが、男尊女卑の考え方が根強い韓国社会で生きる姿を綴った小説「82年生まれ、キム・ジヨン」が100万部を超えるベストセラーとなり映画化もされたほどフェミニズムに対する注目度が高い昨今。「はちどり」も女性監督が撮る女子中学生が主人公の映画ということで、このフェミニズムの流れと同一視する見方も多かった。そんな声もキム・ボラはクールな視線から捉えていた。

「男性監督が男性主人公で映画を撮っても誰も何も言わないでしょう? 私は実際、フェミニストではありますが、それを映画に込めたりはしません。女性主人公で登場人物も女性が多かったのでそのような反応が多かったのは確かですが、女性主人公にしなきゃいけないと考えたわけではなく、自然とそうなっただけ。この映画に対する世界の反応を見ながら、“これまで映画というものはとても男性中心的だったな”と逆に驚いたんです。むしろ、これから私がどんな映画を作っていかなければいけないのか、あらためて考えさせられる機会になりました」

主人公の年代が監督の実年齢と近いこともあり、“監督の実体験をベースにした映画”という紹介もよく見かけるが、実際にはそうではないと言い切る。

「部分的に実体験も入っていますが、結局、すべてはフィクションです。私の自伝的な話です、といえば観客が増えるかもしれないし、興味を惹くかもしれないんですが、嘘はつけませんから。今日だけでも“どれくらい本人自身の話なのか”という質問を何度も受けました。映画は結局すべて創作物。どこからどこまでが自分の部分、といったように測ることはできないんです。実体験が入っているとしても映画ではアレンジしているわけだし、なぜ、こういう質問が多いのか、逆に気になりました。この質問でまた、いろんなことを考えさせられることになりましたね」

実際には、キム・ボラ自身もウニと同じく大峙洞(テチドン)で餅店を営む家に育ち、耳の後ろのしこりを手術するエピソード、漢文の先生の存在など本人自身と重なる部分も多い。そんな実体験をどのように映画という創造物に昇華させていったのだろうか? ──次回“キム・ボラの作家性とその深層”に続く。

Written by:大森美紀

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「はちどり」

*全4回企画 キム・ボラが語る「はちどり」の世界 第2回まで配信中。第3回は6月17日(水)配信予定。


キム・ボラ
1981年11月30日生まれ。東国大学映画映像学科を卒業後、コロンビア大学院で映画を学ぶ。2011年に監督した短編「リコーダーのテスト」が、アメリカ監督協会による最優秀学生作品賞をはじめ、各国の映画祭で映画賞を受賞し、注目を集める。同作品は、2012年の学生アカデミー賞の韓国版ファイナリストにも残った。本作「はちどり」は、「リコーダーのテスト」で9歳だった主人公ウニのその後の物語である。


「はちどり」
監督・脚本:キム・ボラ
出演:パク・ジフ/キム・セビョク/イ・スンヨン/チョン・インギ
©2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.

6月20日(土)ユーロスペースにてロードショー 全国順次公開


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