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「台北暮色」

CULTURE / MOVIE
台湾巨匠傑作選2020
「台北暮色」「あなたを、想う。」
ヤオ・ホンイーの世界/前編

今年も「台湾巨匠傑作選」が開催される。ワン・トン(王童)監督の「バナナパラダイス」をはじめ、一度は見たかった日本未公開作や再上映が望まれていた秀作など多くの魅力的な作品が並んだ。このラインナップに「台北暮色」と「あなたを、想う。」も含まれており、一昨年、昨年とそれぞれの監督から作品について聞く機会を得たこともあって、両作をもう一度見直したくなってきた。と、同時にこの2作の監督であるホアン・シー(黄煕)、シルヴィア・チャン(張艾嘉)が名前を挙げた一人のカメラマンが気になり始めた。それはヤオ・ホンイー(姚宏易)だ。「台北暮色」では撮影監督を務め、「あなたを、想う。」でも一部パートを担当している。共通するのは、この新人監督とベテラン監督、二人共が彼の撮る映像を素晴らしいと絶賛していることだ。

通常、映画について語るとき、撮影監督が言及されることは監督や俳優に比べればどうしても少ない。もちろん、リー・ピンビン(李屏賓)やクリストファー・ドイル、ユー・リクウァイ(余力為)のように、名前を聞いてすぐに作品が連想される人もいる。もしかするとヤオ・ホンイーも一部の映画ファンにとってはそんな存在かもしれない。インタビューの際、シルヴィア・チャンが「私が出演したビー・ガン(畢贛)監督の『地球最後的夜晚』も撮影しているの」と教えてくれたその「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」が、ちょうど今年日本でも公開された。この機に前述の2作品の映像を振り返りつつ、遅ればせながら彼の足跡を辿ってみたい。

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「台北暮色」

まず、全編の撮影を行った2017年の「台北暮色」は邦題通り台北の街が実に魅力的に映し出されていて、まさに彼の“世界”が堪能できる作品だ。ホアン・シー監督が「雑然とした台北の街の風景が彼のカメラを通すとこんなにも違うのか、意外と綺麗なところがあるんだな、と感じるようになった」と語ったように、印象的なシーンは数多い。路地を照らすオレンジ色の街灯、派手な装飾に彩られた廟、亭仔脚と呼ばれるアーケードが並ぶ街角、眩しい照明が夜の暗さを際立たせるコンビニの店先、不揃いのビルの間を縫うように走るMRT、雨が降り注ぐ河口近くの緑生い茂る公園、形を変え続ける水溜まりの波紋。そのどれもが、台北の街をちょっと歩くだけで目に入ってくるよくある風景だ。にもかかわらず、それらはただ美しかったり見慣れぬ面を見せたりするだけでなく、この映画の中に存在している3人の人物の切実な思いを、そこに映し出すことで見る者の心を捉えるのだ。

実際にどんな画を撮るかは、監督から細かく指定されることもあれば、ある程度の希望だけが伝えられて後は任されるケースもあり、それは監督や作品によって様々だ。そのため一つの作品で、カメラマンの特性や指向を言い当てることは難しい。それでも、ヤオ・ホンイーの素晴らしいセンスは「台北暮色」を見ただけでよくわかる。先に触れた街中や自然の風景だけでなく、室内シーンの照明の組み方や色のトーン、人物の配置などからも伝わってくる。もちろん、持って生まれたものもあるだろうが、やはり彼がどのように映画に向き合ってきたかが大きいだろう。そこで後編では彼のキャリアと共に、「あなたを、想う。」と他の作品についても紹介していこうと思う。

*後編へ続く

Written by : 小田 香

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「台北暮色」


ヤオ・ホンイー(姚宏易)Profile
復興美術工芸職業学校(現・復興高級商工職業学校)を卒業後、広告会社でカメラマンとして働く。兵役後の1994年、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督の「好男好女」の現場で撮影助手を務め、2015年の「黒衣の刺客」までほとんどのホウ監督作品に参加。2006年、脚本も手がけた「愛麗絲的鏡子」で監督デビュー。2011年にはドキュメンタリー「金城小子」で金馬奨と台北映画祭で監督賞を受賞した。他の撮影作品に「青田街一号」(15)「健忘村」(17)「君の心に刻んだ名前」(20)などがある。


「台湾巨匠傑作選2020」
9月19日(土)~11月13日(金) 新宿K’s cinemaにて上映
「台北暮色」 9月23日(水)、9月29日(火)、10月3日(土)、11月2日(月)上映
「あなたを、想う。」 9月23日(水)、10月9日(金)、11月3日(火)上映


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