*

「夕霧花園」
(c)2019 ASTRO SHAW, HBO ASIA, FINAS, CJ ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

CULTURE / MOVIE
大阪アジアン映画祭
多くの監督作品が帰ってきてくれた

映画ファン、アジア映画ファン注目の大阪アジアン映画祭が3月6日より開催される。プログラミング・ディレクターの暉峻 創三さんにその歴史と見どころを語っていただいた。


── もう15回め。大阪アジアン映画祭は、大阪独自の盛り上がりが体感できる映画祭として、地元はもちろん、大阪以外にもたくさんのファンがいらっしゃいますね。

かつて東京国際映画祭には「アジアの風」という部門がありました。そこで5年ほどプログラミング・ディレクターをし、その後、この映画祭に招かれました。お客さんの映画祭に対する支持度の熱さは明確に感じますね。正直なことを言えば、東京国際のときには感じられなかった反応があります。
 単に会場の熱さだけではないんです。広報能力も営業能力も限られた小さな映画祭ですが、周辺にいる人たちが自らネットなどで宣伝してくださる。スポンサーに働きかけてくださる。周囲の熱意でここまでこれているんです。会期は10日間ですが、ほとんどの方が、そのあいだに、ひとり20数本もご覧になる。もう疲れ果てるまで(笑)観てくださるんです。

*

「牙と髭のある女神をさがす」
(C) Shatkon Arts Pvt. Ltd

*

「コントラ」
© 2020 Kowatanda Films

── それはプログラミング・ディレクターとして選びがいがありますね。

ええ。作品選定はもちろん、上映スケジュールも、なるべくハシゴしやすいように組んでいます。会場の移動時間もかなり考えて。原稿書くより大変な作業です(笑)お客さん目線は常に意識していますね。自分自身がお客さんになるつもりで。

── 15年のあいだでの変化は?

海外での認知度はかなり上がりましたね。この映画祭で上映したい、という海外の映画人が増えました。大阪でぜひ!という熱さは強く感じますね。この映画祭が、アジアの中で何らかの役割を果たせるようになってきたのかなとは思います。
 今年は「15回」という区切りを少し意識しています。オープニングの「夕霧花園」はその象徴ですね。過去に参加してくれた監督が最新作で戻ってきてくれる。台湾のトム・リンがマレーシアで撮った映画です。トム・リンは長編第2作「星空」で大阪アジアンに参加、コンペの審査員をしてくれたこともあります。主演の阿部寛さんも以前からアジア映画への出演に積極的。かつてタイ映画「チョコレート・ファイター」にも出演していましたが、これもオープニングで上映したことがあります。トム・リンと阿部寛。このふたりがまた帰ってきてくれた。手を携えて。
 これまでは若い映画祭として、常に「新しい名前」を紹介する、というのが重要なテーマでしたから、今年ほど「帰ってきてくれた」映画を上映することはなかったと思います。

── 具体的に作品をあげてください。

「牙と髭のある女神をさがす」のケンツェ・ノルブは、「ザ・カップ 夢のアンテナ」でカンヌに出品された監督。本業はチベットの高僧です。カメラはリー・ピンビン。大阪アジアンには2017年以来の参加となります。
 日本映画「コントラ」はインド人監督、アンシュル・チョウハン。先日ロードショーされた「東京不穏詩」で、2年前の大阪アジアンの最優秀女優賞をとっています。「コントラ」は、近年大躍進しているタリン・ブラックナイト映画祭でグランプリに輝いています。
「少年の君」のデレク・ツァンは過去に2回参加して、2回とも受賞していますね。「ハッピー・オールド・イヤー」のタイ人監督も、受賞監督のひとりです。

*

「少年の君」

*

「ハッピー・オールド・イヤー」
(C)2019 GDH 559 Co., Ltd.

── 短編作品もありますね。

この映画祭のもうひとつの特徴ですね。長編・短編の区別をしないで扱っています。同列なんです。短編はどうしても軽視されがち。だからこそ長編と同等に扱いたいんです。短編は年々増えて、今年は10本あります。

── 出品作セレクションの決め手は?

一言で言うのは難しいですが、初上映(世界初上映、アジア初上映、日本初上映)作品は多いですね。ただ、それは結果的に、です。
 これは近年の世界映画祭の傾向なんですが、同じひとつのいかにも映画祭向けな映画が世界中の多数の国際映画祭で上映されることが多い。
 大阪アジアン映画祭の特徴としては、いわゆる映画祭向けに作られた映画にはちょっと厳しいということが挙げられます。自国の一般のお客さんに向けて作っているか。これは重要なポイントです。
 昔ながらの商業映画の論理といいますか。デジタルでの映画製作によって、映画祭向けの映画を作ることが困難ではなくなった現在だからこそ、そこにはこだわっていますね。

── ひょっとすると、それが大阪でおこなわれる映画祭の持ち味なのかもしれませんね。

考えてはいませんでしたが、イメージ的には合いますね。

── そこに生きている人のために撮っている映画。地場の強い大阪にはフィットする作品群なのかなと。それは東京にはないものかもしれません。

映画人も大阪に来たがるんですよ(笑)。街として人気なんです。

── 韓国映画「はちどり」も、日本初上映ですね。

*

「はちどり」
© 2018 EPIPHANY FILMS. ALL RIGHTS RESERVED.

韓国の「キネマ旬報」と言っていい映画雑誌「シネ21」の年間ベストテンで、ポン・ジュノの「パラサイト 半地下の家族」に次いで第2位。素晴らしい作品です。
 特集企画「祝・韓国映画101周年:社会史の光と陰を記憶する」の1本ですが、近年の韓国映画は実際の出来事を基にしたものに傑作が多いんです。
「はちどり」は2018年作品。映画祭で上映するには「古い」作品にはなりますが、どうしても上映したかった。そこでこういう特集企画にして、やや古い作品が入ってても不自然には見えないようにしたんです。長編第一作とはとても思えない力量です。模範的な作劇ではないんですね。一歩間違うと退屈に感じられる可能性もある。とにかく主人公を追いかけることでドキドキさせる。演出力の勝利ですね。映像的に決して尖ったことはしていませんが、相当な確信の下に作り上げた作品だと感じます。

Written by : 相田冬二


第15回大阪アジアン映画祭
3月6日(金)~15日(日)