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CULTURE / MOVIE
「幸福路のチー」
アニメーションだからできたこと

映画ファンであれば、すぐに気づくだろう。これが、高畑勲の「おもひでぽろぽろ」から、具体的にインスパイアされたものであることが。
「おもひでぽろぽろ」は多くの支持者を獲得する一方、公開当時、多くの批判にさらされた。「なぜ、こんなに、普通の話をアニメーションでやらなければいけないのか?」。主題的にも、また描写的にも、現実をアニメ映画で表現することに大きな疑問符があった。
 あれから28年。アニメ映画が、普通の日常を描くことは当たり前になった。
 無論、TVアニメでは庶民の暮らしを描くことは定番だった。そして「サザエさん」などは令和になったいまも続いている。

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「幸福路のチー(こうふくろのちー)」を創ったソン・シンインは、当初、「ちびまる子ちゃん」のようなシリーズ化を目論んでいたが、それに挫折して長編アニメに切り替えた、と語っている。たしかに、ヒロインをことさら可愛く描かないというキャラクターデザインは、まさに「ちびまる子ちゃん」である。
 アメリカでの結婚生活に行き詰まりを感じている女性が祖母の死のため、台湾郊外のストリート「幸福路」に帰郷。祖母は、少女時代の救世主だった。惑いながら一時停止する現在と、悩みながらも成長していった過去を、映画は行き来する。
 おそらく監督の自画像であると想像できる物語は、ときに少女が「ガッチャマン」を模した妄想を繰り広げることはあっても、一貫して日常に向き合い続ける。特筆すべきは、これはひところ流行った「自分探し」などではなく、「現実直視」である点だろう。回想は大切に綴られる。だが、それは逃避でも、回帰でもなく、「もう現実はそうではない」と突きつけるためなのだ。

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現在と過去の色彩フォルムを明確に変化させない筆致は、それが地続きであることを示唆もするが、同時に取り返しのつかないものであることを、痛感させる。
 もし、このストーリーを実写で描いていたら、現在と過去の差異が際立っただろうし、それゆえ郷愁が強調されただろう。そして、声高にメッセージが叫ばれてしまう可能性もあった。
 多くの観客は、実写のほうがシリアスで、アニメはそうではないと思いたがるが、素材の選択とアプローチの組み合わせによっては、アニメのほうがシビアになることは少なくない。本作は、その成功例と言える。
 「おもひでぽろぽろ」と隣り合わせになる部分を列挙することは不毛だが、このアニメーションが決して故郷礼賛ではないことは、「おもひでぽろぽろ」から学んだ最も大きな指針ではないだろうか。
 台湾大地震がもたらした傷からも目をそらさない。何も解決はしない。ラストはビターだ。
 故郷や想い出が、現在の自分を救うわけではない。人生のすべては地続きだが、全部取り返しのつかないこと。だが、絶望せずに生きてみればいい。劇場アニメーションだから、そう語りかけることができたのかもしれない。

Written by : 相田冬二


「幸福路のチー(こうふくろのちー)」

監督:ソン・シンイン
声の出演:グイ・ルンメイ、チェン・ボージョン、リャオ・ホェイジェン、ウェイ・ダーション
主題歌「幸福路上/On Happiness Road」 歌:ジョリン・ツァイ

11月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国順次ロードショー

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