2004年、一本の映画に日本中がむせび泣いた。
「いま、会いにゆきます」。
生まれて初めての手紙のように、あるいは、これが最後のメッセージのように語りかけてくるタイトルがはらむ情緒そのままに、この映画はありとあらゆる観客の深層を愛撫し、ひとそれぞれの記憶をまざまざとよみがえらせた。
監督は土井裕泰。脚本は岡田惠和。テレビドラマ界のエースふたりがタッグを組み、市川拓司の同名小説を映画化した。土井が映画のメガホンを握るのは初めてだったが、身体に訴えかけくるその情感演出が鮮やかに銀幕に降り立ち、登場人物たち誰もが愛おしくなる岡田ならではの親密なシナリオは見事に立体化した。主演の竹内結子と中村獅童が現実生活でも結ばれたのは、本作に宿った魔法によるところが大きかったのではないか。
そんな伝説の作が、韓国でリメイクされた。しかも新人監督のデビュー作。これがオリジナル版への敬意に満ちた素晴らしい仕上がり。「いま、会い」をリアルタイムで体感しているひとも、その世界にふれるのは初めてのひとも、等しく魅了するであろう良作である。
夫と、まだ幼い息子を残して逝ってしまった女性。息子は、母が読み聞かせてくれた物語を信じ、梅雨の季節には「還ってくる」ことを待った。願いは叶う。しかし、雨はいつまでも降り続けるわけではない。やがて初夏、つまり「別れの季節」がやって来る。
巡り来る季節のはざまで起こる奇跡の行方を描く。韓国版は決して和風のファクターを注入しているわけではないが、このストーリーが日本だからこそ生まれ得たことを静かに気づかせる。時は有限であり、とても儚いものであるということ。わたしたちは日本人は桜を愛し、愛するひとと花見をする。なぜか。来年もまた桜は咲く。しかし、来年もまた一緒にいたい。だが、一緒にいられるかどうかはわからないからである。桜の綺麗な期間はとても短い。しかし、だからこそ、わたしたちにはそれを愛でて、慈しむ感性が備わっている。どんなに幸せな季節も、どんなに悲しい季節も、訪れたら、必ず去っていく。わたしたちを取り残して。そうして、記憶がほんとうに大切なものになる。決してとどめてはおけないことを知っているから、時が大切になる。
息子にとっては、夢の実現だったかもしれない。だが、父にとっては、はつ恋をリ・スタートさせる出来事だった。束の間の復活だとわかっているからこそ、この蜜月の再来は彼にとってかけがえのないものになる。「いま、会い」の最も根源的な部分を具現化することを、夫を体現するソ・ジソブも、ヒロインを表現するソン・イェジンも、できるだけ優先している。韓国風にアレンジされた箇所もいくつかあるが、それらはむしろ、雨が世界を平面化し、ひとの心を穏やかにする作用を有している真実を優しく伝えるために選択された地道な方法である。
4月5日。「Be With You いま、会いにゆきます」が桜の季節に公開されることを祝福する。
Written by:相田冬二
「Be With You ~いま、会いにゆきます」
監督:イ・ジャンフン 原作:市川拓司
出演:ソ・ジソブ/ソン・イェジン/キム・ジファン/コ・チャンソク
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4月5日(金)シネマート新宿ほか、全国ロードショー
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