*

CULTURE / MOVIE
[再配信]「象は静かに座っている」
撮影後、自ら命を絶った作家の諦念と執念

昨年の「第19回フィルメックス」で上映された「象は静かに座っている」が11月2日(土)より公開される。それに合わせ、昨年のフィルメックス上映時に配信したレビューを再配信する。

* *

興趣を引かれる題名は劇中、主要登場人物が口々に語る噂話に由来している。いわく「北方の街・満州里(モンゴル自治区)には、周囲に何の関心も示さずに座り続けている象がいる」。それぞれ窮地に陥った彼らは、まるでユートピアにでも導かれるかのように、満州里への思いにとらわれていく。

234分という長尺の大半を刻むのは、登場人物たちが「出口なし」の状況に至るまでの詳細である。

17歳の高校生ブー(ボン・ユーチャン)は、携帯電話泥棒の疑いをかけられた友人カイをかばって、同級生のシュアイを階段から突き落としてしまう。そのシュアイの兄チェン(チャン・ユー)は、学校から逃げ出したブーを追いつつ、自らの過ちで親友を自殺に追い込んだことの負い目が消えない。ブーの同級生の少女リン(ワン・ユーウェン)は母親との不和に苦しみ、初老の男ワン(リー・ツォンシー)は娘夫婦から老人ホームへの入居を強制され、居場所を失いつつある。

それぞれの問題から始まる四つの負のスパイラルが徐々に絡み合い、ひとつの束となって終局へとなだれ込んでいく。

*

基本的にはブーを主軸とした物語であるが、彼に関係する人物の状況を念入りに描いているため、集団劇の気分も漂ったとするべきか。神経過敏になった人間ばかり。ささくれだった心情、すさんだ人間模様。やりきれない。

映像的にはアップを多用していることに特徴が見いだせる。ほぼカメラは手持ちで長回し。自然光による彩度を抑えたトーン。引き画が極端に少ない。クローズアップか、バストショット。奥手に人物の動きがあっても、必ず手前の人間の顔に焦点を合わせる。ボヤけた背景に何が起きていようと、まるでお構いなしのように執拗に表情をねらう。ねらった人物が動き出せば、延々とその背中を、感情を追い続ける。当然、尺も延びる。もとより、効率よくドラマを運ぼうとする意識などなかったのではないか。その気概に感心もすれば、疲弊もする。そのうねり。

監督のフー・ボーはこれが長編映画第1作。自ら編んだ小説をもとに脚本も書いている。撮影後に自ら命を絶っており、「出口」への手前で登場人物たちの物語を終えてしまう作風と重ねて、そこに何らかの符号を見るべきなのか。諦念と執念が交錯してどうにも痛い。

ベルリン映画祭「フォーラム部門」国際批評家連盟賞に続き、第55回金馬奨(台湾)では作品賞と脚色賞を獲得している。

Written by:賀来タクト


「象は静かに座っている」(中国)
監督・脚本・編集:フー・ボー
出演:チャン・ユー/ボン・ユーチャン/ワン・ユーウェン/リー・ツォンシー

2019年11月2日(土)よりシアター・イメージ・フォーラムほか全国順次ロードショー