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ラム・サム
「星くずの片隅で」

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夏目深雪


血縁関係のない人でも、
助け合い、そこに愛が存在する

――コロナ禍をテーマの一つにした作品はいくつかありますが、最も心をうつ作品でした。若いシングルマザーの生き様が理想的過ぎず、リアルに描かれていて、「少年たちの時代革命」(21)に次いで、少女や若い女性が追い詰められている様が香港という国の現状と重なって見えるようでした。あなたは男性ですが、若い女性を描くのがとても巧いと思います。

脚本のフィアン・チョンさんもそうなんですが、キャラクターを中心に映画を作っていくというスタイルを取っています。どういうシーンを撮ったら観客に喜んでもらえるのかというのではなく、キャラクターを設計し、どういう性格で、どういう環境によってそういう性格になったのかなど、細かいところまで気を使います。キャラクターに合わせて流れを作っていくのです。一般的な映画よりも娯楽性は減ってしまうかもしれませんが、よりリアルで、キャラクターが考えていることを読み取れるような映画になったのではないかと思っています。

――確かにキャンディのキャラクターはあまり映画では見ないような気がします。実際にああいう方が近くにいたとか、取材したとか、あと俳優さんの意見を取り入れたり、色んなやり方があると思いますが……。

以前、教師をやっていた時の生徒がモデルになりました。女の子で、洋服にすごくお金をかけるわりに、お昼ご飯を食べるお金さえない子とか。優先順位が、我々の世代と若い人とは違うのかなと。演じたアンジェラ・ユンさんからも、演じるにあたってコメントをたくさん頂きました。どういう服を着るのか、どういうイメージなのか。若い女性なのに子供がいるというのはどういうキャラクターなのか、娘にはお母さんのように接するのか、友達のように接するのか。

――シングルマザーをストーリーの中心に据えたのはどなたの考えだったんでしょうか。

脚本のフィアンさんと話し合って、最初からシングルマザーを設定しました。背景としては、実際にシングルマザー、シングルファーザーの家庭が多いことですね。僕の奥さんの家庭もシングルマザーの世帯でした。両方の親が揃っている家庭より、例えば経済的なものであったりと、困難が多い。観客に、もし自分がキャンディの立場だったら、どのように困難に立ち向かうのかということを感じてほしかった。 キャンディが盗みをしたり、間違った行動を取るんですが、反射的に批判するのではなく、当時の背景を読み解くと、理解できるところがあると思います。当時の香港ではマスクが全く買えなかったんですね。盗みはよくないことですが、娘のために仕方がなくやった。何があったとしても、まずは理解しようとして欲しい、そういったメッセージも込めています。

――民主化デモが始まった2019年以来、香港では民主化デモや香港の現状を映したドキュメンタリーが増えたとリム・カーワイ監督に聞きました。「少年たちの時代革命」は民主化デモをテーマにしながらも、フィクション作品でした。一方で、アンソニー・ウォン主演の「倫楽の人」(18)のようなハートウォーミングな香港映画も増えていますね。監督の場合は、優れたフィクション映画を作ることが、香港の姿を世界に伝え、また香港の人々を元気づけると考えていらっしゃるんでしょうか。

今の香港の政治状況からすると、事実を映画として記録するのはなかなか難しいし、危険も伴うものになります。また、ドラマの方が得意だし、作り込めて面白いというのもあります。

――香港映画と言えば、ウォン・カーウァイを始めとし、優れた恋愛映画が輩出されてきました。ただこの映画は、ザクとキャンディが最後まで親密な関係にはなりきらずに、でもお互いに大事に思い合っているのがいいですね。これは脚本段階からそうだったんでしょうか。

ザクとキャンディが「一緒にならない」というのは決まっていました。というのは、血縁関係のない人でも、助け合い、そこに愛が存在するというのが、感じてもらいたかったテーマです。2人が結ばれて恋人になってしまうと、そういう話ではなくなってしまう。ただ、演じたルイス・チョンさんとアンジェラ・ユンさんには、「2人は結ばれるべきか?」と聞いてみました。ルイスさんは当初、「結ばれてもいいんじゃないか」と言っていました。でもアンジェラさんは、「親子ほどの年齢差がある。子供もいるし経済的な問題も抱えているなか、恋愛する気力があるのか」との意見でした。ディスカッションの結果、全員一致で今の結末を選びました。

――この映画は自由の問題を扱った映画でもあります。ザクはキャンディのしでかしたことによって自分の会社を畳まなければいけなくなり、就職を余儀なくされ、自由を失います。しかし2人の間にある思いやりと愛情は最後取り戻されます。どうしても、自由の問題で苦しんできた香港の人々のことを考えてしまいました。この物語、特に希望に満ちたラストシーンにはどのような思いが込められているのでしょうか。

その解釈は間違ってないと思います。コロナ禍を経てかなりシナリオが変わりましたが、トップシーンとラストシーンは変わっていないんです。ザクは清掃というスキルをずっと持っていた人です。会社を畳まなければいけなくなって、違う職場にいって、清掃をする必要はないのに、そこが汚れていたら掃除したくなる。自分の価値観を貫き通してきて、何かあった時にやっぱり現れてしまう。そういうことを表現したかった。あなたの仰る通り、香港人の自由を求める心という解釈も、ある意味で正しい。

――この作品はレックス・レン監督との共同監督を経て、あなたの初長編作品になります。最も苦労したことは何でしょうか。

撮影はすごくスムーズだったんです。スケジュールはタイトだったんですが、晴れてほしい日に晴れ、雨が降ってほしい時に降ってくれました。ただ、脚本製作がとにかく大変でした。構想を立てたのは2018年で、その時の香港はまだ何も起きてなかった。2019年に民主化デモ、2020年にコロナ禍が起き、ガラッと変わってしまった。分かりやすい例で言うと、街中に人がいないですよね。人々もマスクをしていたりだとか、状況に合わせて脚本を変えていかなければいけない作業が大変でした。映画館も閉まってしまっていて、上映ができるかどうかも分かりませんでしたし。

――脚本に3年くらいかかったということでしょうか? 撮影はどの位ですか。

脚本は構想段階からだと2年半~3年くらいかかっています。脚本ができた2021年の8月から9月に、3週間かけて撮影しました。

――今ロンドンにお住まいだそうですが、これからも香港を描いていく予定ですか?

今後も、香港人のストーリーを描いていきたいです。必ずしも香港にいる香港人ではなくて、海外にいる香港人もテーマになるのかもしれないと思っています。ロンドンでも、香港からの移民も増え、コミュニティもできていて、面白いストーリーが存在しているので。

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「星くずの片隅で」


「星くずの片隅で」

監督:ラム・サム
出演:ルイス・チョン/アンジェラ・ユン
2022年製作/115分/香港
原題:窄路微塵 The Narrow Road
配給:Cinema Drifters、大福、ポレポレ東中野

7月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ポレポレ東中野ほか全国ロードショー


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