photo:星川洋助
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夏目深雪
台詞は役者さんの言葉で喋ってもらうような形
マレーシア生まれの華人でありながら、「シネマ・ドリフター(映画漂流者)」を自称し、いくつもの言語を操りながら様々な国の人々と協働しつつ漂流を続けるリム・カーワイ。このたび、大阪が舞台の三部作の完結編「COME & GO カム・アンド・ゴー」(20)が晴れて劇場公開となる。
キュレーターとしても活躍し、2017年、そして今年と続けて企画した「香港インディペンデント映画祭」が盛況に終わり、また11月に装いも新たに全国5都市で「香港映画祭2021」が開催されるという。
今最もアツい男、リム・カーワイにインタビューを行った。
――緻密な群像劇で驚きました。大阪の「キタ」に来た外国人と、そして渡辺真起子演じる日本語学校の先生などの日本人が、交わったり交わらなかったりしながらクライマックスに向かいます。着想はどんなところから?
中国でデビュー作「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」(09)、香港で「マジック&ロス」(10)を撮った後、しばらく中華圏で映画を撮ろうと決めていました。ですが、2010年にCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)にダメ元で応募してみたら、企画が通ってしまった。大阪で映画を撮らなければいけないという状況になって、大阪に戻りました。大阪大学に留学していた時以来なので、10数年ぶりでした。
大学の後東京で働いていて、その後中国に行ったので、知り合いもあまり居なかった。でも戻ってきて大阪がいいなと思いました。香港やマレーシアと共通点があって、それはオープンな雰囲気ですね。人と人の距離が短くてすぐ友達になれる。東京にいた頃はそう感じることはあまりなかった。
――よくおばちゃんが飴くれるとか言いますよね。経験はありませんが。まぁ街はちょっとごちゃごちゃしているような気がしますが……。
そこがアジアっぽくていいんですよ。釜山に行ってもおばちゃんがおにぎりとかくれます。
そして、12年に大阪に住むことに決めます。それは、北京に6年住んでいたんですけど、中国の映画の作り方が段々とバブルっぽくなっていって、やはり自分のやりたいこととは違うなと思ったんですね。
――北京時代は、聞くところによるとワン・ビン(王兵)のいつ終わるか分からない映画に巻き込まれていたという……。
「無言歌」(2010)というワン・ビンの初劇映画ですね。その頃は本当に、ワン・ビン、ジャ・ジャンクー(賈樟柯)らと親しくなることができて。いい時代だったんですけど、08年の北京オリンピックの後、色々と変わり始めた。
それで大阪に帰ってきたんです。「新世界の夜明け」(11)、を撮ったのがきっかけで、大阪をベースに映画を撮っていこうという決心がついた。大阪三部作の構想も生まれて、その2作目となる「恋するミナミ」(13)も撮りました。
「COME & GO カム・アンド・ゴー」もそうですが、大阪のある特徴のある地域を舞台にして、日本人と東アジアや東南アジアから来た人との交流や葛藤を描く映画です。
――でも前二作とだいぶ雰囲気は違いますよね。緻密な群像劇というスタイルは、ロバート・アルトマンを想起させました。
最初から念頭に置いてました。企画した時、粗筋も「ショート・カッツ」(93)を彷彿とさせるものを書いたり。群像劇で、色んな物語が同時並行していく。そして最後変わったり変わらなかったりする。一度やってみたかった。
――アート系映画からエンタテインメント寄りのものまで、作風が幅広いですが、多国籍なのが共通していますね。これはリム監督がマレーシア出身の華人であることが影響しているのでしょうか?
確かにマレーシアは多民族・多言語国家なので、自然に自分の映画に反映しているところがあるかもしれません。様々な文化が色のように混ざり合い、共存している。例えば、マレーシア人であれば、みんな大体3つ以上の言語を話せます。しかも同時に使い分けている。
――俳優が豪華で驚きました。ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)映画でお馴染みのリー・カーション(李康生)、「ソン・ランの響き」のイケメン俳優・リエン・ビン・ファット、そして渡辺真起子。映画祭などで知り合って、ローバジェットにもかかわらず出演を快諾してくれたとか。
リー・カーションは出演をお願いした時に、「自分で決められない。ツァイ・ミンリャンの同意が必要だ」と。この映画は脚本がないんですが、粗筋のようなものを書いて渡しました。それをツァイ・ミンリャンが読んで、「面白い」ということで出演してくれることになりました。
――リエン・ビン・ファットはベトナムでかなり人気のある俳優だとか。
お願いした時はそうでもなかったんですよ。ちょうど撮影が終わった頃に、「ソン・ラン」でベトナムアカデミー賞で最優秀男優賞を獲ったんですよ。それからですね。
――そうですよね。役柄がスターがやるには……。
ラッキーでしたね。確かにアカデミー賞を獲った後だったらオファーを受けてくれなかったのではないかと。
――尚玄も東京国際映画祭のガラ・コレクションで上映されたブリランテ・メンドーサの「Gensan Punch 義足のボクサー」(21)が随分話題になっていましたね。
オーディションをやって、来てくれたんですよ。彼を見て、すごくいい役者さんだと思いました。いろんな端役をやっていた方で、勿体ないというか。ぜひお願いしようと。この映画は彼が久しぶりに喋ったり長いシーンがある映画なのではと思います。勿論その後の「Gensan」では主役ですが。
――撮り方も気になりますね。順撮りで進めていくような方法でしょうか? 監督自身が混乱しないかどうか気になります。
スケジュールは全て自分で把握し、役者さんとの連絡やフライトスケジュールの調整なんかも、全部僕がやっています。スタッフはみんな日本人なので、言葉の問題もあって。
――全部ご自分でやったとなると、時間がかかったのでは。撮影はどのくらいの期間でしたか?
準備に3週間、撮影に3週間です。
――えっ!
あり得ないですけど(笑)。大手だったら準備に数カ月、撮影に3カ月かかると思います。
――編集までご自分でやられていますが、こちらは時間がかかったのでは。
そうですね。半年かかっています。構成も凝っているので、組み合わせが何パターンもあって、苦労しました。
――台詞がアドリブだったということですが。
脚本はなくて、ハコ書きみたいなものはあって、こういうことを言ってくれと役者さんに話して、彼らの言葉で喋ってもらうような形ですね。
「どこでもない、ここしかない」(19)から始めた方法です。その時は、プロの役者さんじゃない人にその方法をやってもらいました。
――今回は芸達者な俳優さんが多いですが、彼らはやはり違いましたか?
逆にやりにくいですね。彼らは色々と説明や準備をして欲しがります。
――何故その方法を?
一度やってみたいと思ってたんです。やってしまうと巧くいった。
――日本でそんな撮り方をしているのは諏訪(敦彦)監督くらいでは……。
諏訪監督は役者とディスカッションがありますね。ディスカッションもなしです。瞬間の、その人が置かれている環境を生かして撮るということです。
――そうすると、ドキュメンタリー群像劇みたいな感じですね。
そのやり方だと、巧くいく部分も、巧くいかない部分もある。巧くいく部分を生かすということです。巧くいかない場合は、逆手に取って巧く見せかけることもできる。僕はそれが映画の力だと思っています。撮影・編集のプロセスを通じて、映画ってやっぱり嘘つくことですから。
「COME & GO カム・アンド・ゴー」
監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ
出演:リー・カーション/リエン・ ビン・ファット/J・C・チー/モウサム・グルン/ナン・トレイシー/ゴウジー/イ・グァンス/デイヴィッド・シウ/千原せいじ/渡辺真起子/兎丸愛美/桂雀々/尚玄/望月オーソン
2020年製作/158分/日本・マレーシア合作
原題:COME & GO
配給:リアリーライクフィルムズ、Cinema Drifters
(c)cinemadrifters
11月19日(金)より ヒューマントラストシネマ渋谷 ほかにてロードショー