野村麻純
構成:濱野奈美子
驚愕のワンダー、
見た人とどう思う?って話し合える映画だと思います
「十八才」は語るのが難しい映画です。きっと男性と女性で感想が全然違うと思います。
若さを描いていることはすごくわかります。
男の子が唾を吐いたり、 高校生なのにタバコをふかす描写だったり、やっちゃいけないことをやってしまう年齢ですよね。
自暴自棄になったり、衝動的になったりする気持ちもわかるんですけど、アルバイトの途中でそのまま女の子を追いかけるのは、もう「ストーカーじゃん!」とちょっと怖さも感じました。
それにしても1人の女の子に対する執着がすごい。
それこそ18歳だったら、もっといろんな女の子に声かけたりしてもいいじゃないですか。
しかも彼は頭がいい設定だから、優等生として進む道もあるのに、やることなすこと全部が素行の悪い「なんでそっち行っちゃうの?」という方向に全振りしていて、まったく共感できない。
すごく珍しい作品です。初めての映画体験でした。
とにかく演技がリアルで、ドキュメンタリーを見ている感じでした。 男の子がゲームセンターで絡まれるシーンは本当にかわいそうだと思ったし、主人公は2人ともすごく生々しかったです。
実在感というか、本当にこういう人いるよねって感じで、セリフよりも行動が印象に残る作品だと思います。
大人になると、理性や常識があるからこの映画みたいなことはやらないしできないし、嫌悪感溢れる、みんなが「えーっ?」と思うことを作品にする勇気はすごいです。
この作品は、18歳という思春期と大人の狭間を全部ぶつけているし、その頃に自分の心を戻して作ることができる監督もすごいです。
実体験に基づくものだそうなので、自分の膿みたいなものを全部出し切ると決めたか、もしくは、中途半端にするくらいだったら、もう振り切ってやるところまでやろうと考えたのかもしれないですね。
女の子が最初から全然楽しそうじゃなくて、本当に好き同士なのかなと見ていたんです。
男の子は本当にエッチしたいだけ、性欲をどうにかしたい、そういう下心が見えて、嫌だなと思ったし、彼女も嫌なんだろうな、今まで全然笑った顔見てないし。
でも、お父さんがもう会っちゃダメって言った時に、彼女から別れないって言うんですよね。
その言葉はずっと引っかかっていて、そう言いながら、その後態度がどんどん冷たくなって行くのは、お父さんも厳しい人だし、姉妹喧嘩した時に「彼は私より頭がいいから」と言っていたので、 彼女なりに学歴コンプレックスがあったから、受験が終わるまで連絡を絶って、ちゃんといい大学行くことを考えていたのかな、と。
それにしても、 途中の拒絶の仕方は絶対嫌な感じなので、辻褄が合わないと思っていたら、最後に彼が買ったペンダントをしている!「え? 何があって?」と思いました。ペンダントを渡した場面を見逃したのかなと2回見たけど、その場面はないし、本当に謎です。
今は共感できる作品がいいとされているじゃないですか。
すごく共感して泣きましたとか。
でも、この作品はその逆を行っています。
私のすごく大好きな歌人の穂村弘さんが、よくシンパシーとワンダーの話をされています。
人の心を動かすのは共感のシンパシーと驚愕のワンダーで、どちらかが強ければ人の心は大きく動くと。
だからこの作品も共感はないけど「なんだこれ? なんだこれ?」って見続けることはできます。
「どう終わるの?」「2人はどうなるの?」「これは思い出なの? 夢なの? 妄想なの?」と、共感できない部分でいろいろ探ることができる。今まで「わかるわかるそうだよね」という映画ばかり見てきた人ほど、この映画を見たら、まったく共感できず逆に面白いかもしれないです。
見た人とどう思う? ああじゃないの? こうじゃないの?って話し合える映画だと思います。
それはやっぱり作品の魅力なのかと。
「十八才」
監督・脚本:チャン・ゴンジェ
出演:ソ・ジュニョン/イ・ミンジ
2009年/95分
原題:회오리 바람/Eighteen
© mocushura
(劇場初公開)
「映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で」
配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio
3月7日(金)より ユーロスペース
3月8日(土)より シネ・ヌーヴォ(大阪)
ほか全国順次公開
★チャン・ゴンジェ来日、トーク・ライブが決定
3月7日(金)19:55 ユーロスペース 「十八才」上映後、トーク・ライブ
3月8日(土)18:25 ユーロスペース 「5時から7時までのジュヒ」上映後、トーク・ライブ
3月9日(日)19:10 シネ・ヌーヴォ(大阪) 「5時から7時までのジュヒ」上映後、トーク・ライブ
★菊地成孔によるトーク・ライブが決定
3月15日(土) ユーロスペース「5時から7時までのジュヒ」上映後、
菊地成孔によるトーク・ライブが決定。MC:相田冬二(映画批評家)
詳しい上映時間は劇場HPを参照