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A PEOPLE CINEMA

特集上映
アジアシネマ的感性
「カンウォンドのチカラ」「あなたを、想う。」
「アメリカから来た少女」

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小橋めぐみ


小橋めぐみが上映後トーク・ライブを開催

8月23日(金)より、シモキタエキマエシネマK2にて、特集上映「アジアシネマ的感性」が始まります。ラインナップは11本。会期中にはトーク・ライブも開催予定で、私は3本の映画の上映後、登壇します。その3作品を、こちらでご紹介したいと思います。

同じ時に、同じ場所を訪れていながら、すれ違い続ける元恋人同士が経験する出来事を、女性側と男性側の二つの視点で描いたホン・サンス監督の長編第二作目「カンウォンドのチカラ」。

女友達3人で自然豊かなカンウォンド(江原道)を旅したジスクは、そこで出会い、世話を焼いてくれた警察官に惹かれる。後日再び、今度は一人でカンウォンドを訪れたジスクは、警察官と一晩をともにする。一方、教え子であるジスクと別れたばかりの大学講師サングオンも、後輩に誘われ、カンウォンドを訪れる。

別れた後に、偶然、同じ場所を同じ時に旅行先に選んでいたというのは、まだ縁があるからなのか、どちらかの未練が引き寄せたことなのだろうか。交わらない時間を過ごしながらも、お互い、同じ時にお酒を飲んでいたり、人肌が恋しくなっていたり。それは一見、他愛ないことで、ドラマチックなことは何も起こらないけれど、ジスクの物語とサングオンの物語を続けて観る事によって、別れた後の時間というのは、また新たに、恋人たちが出会うまでの時間になりうるのだと思えてくる。

でもそんなに爽やかな物語ではない。ああ、人間ってこういう性を持っているよね、と小さなため息をつきながら、そういえばあれはどんな意味があったのかな?と誰かと話したくなる、ちょっと不思議な映画です。

吐き出せない想いを、答えの出ない想いを抱えながら生きる3人の若者たちを描いた、シルビア・チャン監督「あなたを、想う。」。

台湾の東の沖にある美しい島、緑島で生まれ育った兄ユーナンと妹ユーメイ。両親は喧嘩が絶えず、母は幼いユーメイだけを連れて島を出たが、まもなく他界してしまう。家族を引き裂いた母への怒りを抱え続けたまま大人になったユーメイは、ボクサーの恋人ヨンシャンに、妊娠をしたことを告げられず、彼女自身も親になることに躊躇いがある。

また、ヨンシャンも、幼い頃にいなくなった父親への恋しい想いを抱えていて、父が習わせたボクシングを大人になった今も一途に頑張っていた。だが、網膜剥離で片目の視力を失いつつあることを受け入れられず、誰にも胸の内を話せない。

一方、台東で旅行ガイドとして働いているユーナンは、バラバラになった家族への複雑な想いを心にしまっていて、自分自身が家族を持つことを拒否するように、一人で暮らしている。

映画の原題は、「念念」。中国語で「時々刻々、その時その時」。監督はこのタイトルに、ずっとこだわっていて忘れられないことへの想いを込めた。過去に想いが残されてしまうと、過去を生きてしまう。今に集中できなくて、想いはバラバラになってしまう。

忘れられない苦しい想いにどう向き合い、乗り越えてゆくのか。

映画の中に現れる、幻想的なひとときに胸を締め付けられながらも、同時に自分の想いも静かに浄化されていくような、優しい物語です。

SARSの猛威に翻弄された2003年の台湾を舞台に、アメリカから帰国した13歳の少女と家族の物語を描いた、ロアン・フォンイー監督「アメリカから来た少女」。

母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイーは、乳がんになった母の治療のために3人で台湾に戻ってくる。台北の学校に通い始めたファンイーは、アメリカでの学校生活とのギャップに馴染めず、勉強にもついていけず、クラスメイトには揶揄われ、教師からは厳しい指導を受けてしまう。家では母が術後の不調を訴え、ナーバスになっており、そんな母とファンイーは度々ぶつかっていた。

周囲に馴染めない心細さやもどかしさ、頑張っても結果を出せない悔しさ、大好きなのに度々衝突してしまう、母への想い。繊細に揺れ動く少女の感情がダイレクトに伝わってきて、私の中の、少女だった頃の記憶を刺激する。ぶつかり合うだけではなく、家族で過ごす日常の幸福な時間も描かれていて、いいことばかりじゃないけれど、それでも家族であり続けようとすることの、かけがえのなさみたいなものが、そよ風みたいに伝わってくる、美しい映画です。

以上、この3作品の上映後、トークライブをします。夏の終わりに下北沢で、映画を巡るアジアの旅を、その感性を、お楽しみいただけましたら!


特集上映「アジアシネマ的感性」

開催日:8月23日(金)〜9月5日(木)
会場:シモキタ エキマエ シネマ K2
上映スケジュールはK2のHPを参照

*小橋めぐみトーク・ライブ終了後、書籍「アジアシネマ的感性」(小橋めぐみ・著)、あるいは作品のパンフレット(小橋めぐみがレビューを執筆)いずれかの購入者を対象にサイン会を行います。

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「カンウォンドのチカラ」
監督・脚本:ホン・サンス
(1998年/109分/韓国)
© MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD

8月25日(日)18:20の回、上映後に小橋めぐみのトーク・ライブあり


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「あなたを、想う。」
監督:シルヴィア・チャン
(2015年/119分/台湾・香港合作)
© Dream Creek Production Co. Ltd./ Red On Red

8月30日(金)夜の回、上映後に小橋めぐみのトーク・ライブあり


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「アメリカから来た少女」
監督・脚本:ロアン・フォンイー
(2021年/101分/台湾)
© Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).

8月31日(土)夜の回、上映後に小橋めぐみ(女優)のトーク・ライブあり


下北沢×映画×本
「本屋B&B」で小橋めぐみがトークイベント

文筆家で女優の小橋めぐみが執筆した書籍「アジアシネマ的感性」が発売中。発刊を記念し、 8月24日(土)、下北沢の「本屋B&B」で小橋めぐみのトークイベントが行われる。MCは映画評論家の佐藤結。

小橋めぐみ×佐藤結
「アジアのこと。映画のこと。私のこと。」

『アジアシネマ的感性』(A PEOPLE)刊行記念

開催日:8月24日(土)
会場:本屋B&B
開演:19:00
詳細・チケットはこちら


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