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濱野奈美子
「残りの人生をかけてマキノジンを
世界一のジンにする」
高知に「マキノジン」というクラフトジンがある。
柑橘系の香りとウッディでスパイシーな香りが複雑に融合したエキゾチックな味わいが特徴のジンだ。
製作者である高知市一番の繁華街でBAR「クラップス」を営む塩田貴志さんは「残りの人生をかけてマキノジンを世界一のジンにする」という。
その言葉は嘘ではなく、International Wine & Spirit Competition 2024のスピリッツジン部門でシルバー賞受賞、また、International Spirits Challenge 2024でもブロンズ賞受賞、と国際品評会でも高い評価を受けている。
商品名の「マキノジン」は、高知県佐川町出身の植物学者、牧野富太郎にちなんで命名した。
キーボタニカルに、牧野博士が妻の名前から命名したスエコザサを使用し、高知県産のグアバ、ブシュカンやショウガ、ハーブなど全12種類を、司牡丹の焼酎に漬け込んで蒸溜する。
司牡丹の焼酎を気に入っていた塩田さんが、司牡丹にマキノジンを蒸留したいという話を持ちかけたところ、牧野富太郎の生家があった酒蔵岸屋の跡地(現在は司牡丹の敷地)に10年使われていない蒸留器があった。
これは運命だと塩田さんは確信したという。
2021年10月にクラウドファンディングでマキノジンベーシックを初蒸留。
2023年3月にマキノジンプレミアム 文旦フレーバーを製造。
そして、2025年、塩田さんは新しいフレーバーに挑戦している。
使うのは高知を代表する果物、新高梨。
大玉で甘みが強く、シャリシャリとした食感が特徴の梨で、重さ1kg、直径20cmを超えることもある大玉品種だ。
この新高梨に、春野町産ベルガモット、津野町産の黒文字と高知のボタニカルを合わせ、キーボタニカルは牧野富太郎が命名した胡蝶蘭だという。
いったいどんな香り豊かなジンができるのかとワクワクせずにはいられないが、しかし、大きな難関がある。
実は新高梨のフレーバーの抽出は不可能だと言われている。
フレーバーの抽出には油分が不可欠なのだが、新高梨にはそれがない。
しかし、塩田さんは これを克服するために、2024年度から国立高知大学院修士課程農林水産学部農芸化学コースに入学して、もっとも効率的な新高梨フレーバーの抽出方法を研究している。
新高梨のフレーバーの効率的抽出条件を実験に実験を重ね、データーを取り揃えているそうだ。
マキノジンの新フレーバープロジェクトは現在クラウドファンディングを実施中。
「植物に感謝しなさい。植物がなければ人間は生きていけません。
植物を愛すれば世界中から争いはなくなるでしょう」という牧野富太郎の言葉を胸に邁進する塩田さんの挑戦に注目したい。
「マキノジン新商品、高知の誇り日本の誇り、新高梨フレーバーを造りたい」
URL:https://readyfor.jp/projects/ginmakino-nitakanashi
塩田貴志(しおた たかし)
1957年生まれ。平成2年12月に、オーセンティックBAR、ダンディズム土佐BARクラップスを開業。全国バーテンダー技能競技大会創作の部優勝。 日本バーテンダー協会ベストバーテンダー受賞など多くの賞を受賞。2024年度から国立高知大学院修士課程農林水産学部農芸化学コースに入学して、蒸留やボタニカルを研究している。