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review

Bi Gan | A SHORT STORY
ビー・ガン | ショートストーリー

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相田冬二


15分とは到底思えぬ映画の豊穣、
来るべき映画メディアに関する展望

「凱里ブルース」「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」のビー・ガンの新作が、なんと500円という特別鑑賞料金で劇場公開される。15分の短編とはいえ、2023年日本公開の新作としてはベストワンかもしれぬ本作を、前代未聞の低価格で体験できるとは! 宣伝文句の“ワンコインの贅沢”はあまりに謙虚な文言である。

「Bi Gan | A SHORT STORY / ビー・ガン | ショートストーリー」は、観る者に【壊滅的な自由】を享受させる鄙(ひな)にも稀な傑作。映画という文化への挽歌であり、来るべき映画メディアに関する展望でもある。つまり、過去と未来が同時に押し寄せてくるのだ。

時空を変容させるビー・ガンならではの周遊感覚は健在ながら、奔放さよりも説話構造の中にパンパンに詰め込まれた寓意の魔力が際立つ。

長編2作が外へ外へと向かう内的感覚の発露だったとすれば、この短編は明瞭でオープンな筆致が内省を浮き彫りにする。ベクトルが逆。この映画作家特有のダイナミズムは、随所に散りばめられた粋な仕掛けを反響させており、わたしたちはビー・ガンの進化と深化の途上に立ち会うことになる。

これまでの3作の中では最も人懐っこい肌触りがあり、この作品でビー・ガン初体験する人がいるとしたら、かなり幸運でもある。

旅と乗り物感覚は、ビー・ガンの代名詞。ここでは一匹の黒猫の冒険とその末路に、観客が随行することになる。

私は飛び立ちたいから、燃やしてくれ。まず黒猫は案山子にそう頼まれる。自殺幇助か、夢の実現への援助か。黒猫は迷うことなく願いを聞き入れ、しかし、問う。

この世でいちばん大切なものとは?

答えに窮した案山子は、3人の奇人に訊きに行け、とメッセージを残し、現世から自由になる。

かくして、黒猫の旅が始まる。

ロボット、女性、そして悪魔が、3人の奇人。

ほろ苦さと甘い飴を交換するロボット。恋人との想い出を忘れるために記憶を失う麺を食べ続ける女性。手品師から魔法遣いになり今は劇場に一人で暮らしている悪魔。

全員、孤独である。出逢いと別れが接続されていて、記憶と忘却がセットアップされていて、誰かの存在を求めている。

賢人ではなく、奇人に逢いに行く。問いはあるが、答えはない。極めて文学的なモチーフであり、めくるめく言葉の森に迷い込む愉悦もある。しかし、前2作から一転、長回し撮影に頼らない映像のきびきびとした呼吸が、映画を屹立させる。

黒猫の、退路のない前進を見つめる映画。そうしてたどり着く、感慨と余韻。もっとふくらませたくなる要素を、優雅に寸止めし、さっと風を吹かせてみせるビー・ガンの余裕は、やがて真摯で切実なサムシングとして、脳裏に木霊していく。

15分とは到底思えぬ映画の豊穣がある。15分だからこその映画としてのリズムとサウンドがある。

「凱里ブルース」の移動。「ロングデイズ・ジャーニー」の宇宙。偉大な二作を抱擁しつつも、ある意味置き去りにして、何も畏れることなく、自身の歩みを塗り替えていくビー・ガンは現在、SF映画を準備しているらしい。

本作が、これまでの【終わり】なのか、これからの【始まり】なのか、それはわからない。

わかっているのは、ビー・ガンこそが現代中国映画界の突端に立ち尽くしているという真実だ。


Bi Gan | A SHORT STORY / ビー・ガン | ショートストーリー
監督:ビー・ガン
出演:タン・ジュオ/チェン・ヨンゾン
原題:破碎太陽之心 A Short Story
2022年/15分/中国・フランス合作
配給:リアリーライクフィルムズ
©Dangmai Films / ReallyLikeFilms

10.27(金) ワンコイン(500円)ロードショー
ヒューマントラストシネマ渋谷
11.3(金)から1週間限定公開 大阪・なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸

ビー・ガン / ショートストーリー公開記念 「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ3D版」特別上映決定!
10.27(金)〜29(日)3日間限定 ヒューマントラストシネマ渋谷
11.3(金)〜5(日)3日間限定公開 大阪・なんばパークスシネマ


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