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review

アフター・ミー・トゥー

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相田冬二


観客一人一人の認識のためになる、
映画による卓越したグループ展

「アフター・ミー・トゥー」。
いかにも邦題っぽいが、原題通りである。

#MeTooムーブメント、その後。
各国で熱気を帯びたタイミングは異なるが、韓国では2018年、大きなうねりとなった。

それから3年後。
これは、4人の女性監督がそれぞれのドキュメンタリーを撮り上げ、オムニバス形式にしたものである。

たとえばギャラリーで行われる小規模のグループ展などをイメージしてもらえるとわかりやすい。

映画では、オムニバス・ドキュメンタリーという体裁はあまり馴染みがないが、アートの世界では、ごくごく当たり前の展示方法だ。

そこには、個展にはない拡がりがあり、作者が複数いることで、鑑賞者は、各々の表現の視点にフラットに接することができる。

明らかにメッセージを有するものほど、こうした分散・配置は有意義だ。

つまり、この映画は極めて冷静で、レイアウトが優秀。

こうした社会問題にアレルギーのある人ほど、思わぬ観やすさに、発見を手にすることになるだろう。

タイトルからイメージされるものに相当するのは、実は一編だけ。

3つめに登場する〈その後の時間〉。
今回の企画の中心監督が手がけている。
アーティスト、映画監督、そしてパントマイマー。

美術界、映画界、演劇界という業界の軋轢に抗い、動いている女性たちが語る。

「活動家なのか、美術家なのか。わからない。が、活動していると創作はできない。しかし、いまやらなければ。活動を優先している」

切実な吐露がある。一方、

「もう映画が撮れなくなるかもしれない」

そんな恐怖もある。
パントマイマーは、

「悩んだが、訴訟を起こしたことで、気持ちが楽になった」

と。
それぞれ表現者ならではの苦悩がある。

表現者にとって表現はアイデンティティである。
だが、それは公的なアイデンティティ。

自身の個を、つまり、私的アイデンティティをどう扱うかも、セクシャルハラスメントに遭遇した時、女性は問われることになる。

感情的、あるいは突発的なことは、何一つない。

逡巡と決断、実行と後悔。
それらがループし、自分の選択と闘わなければいけなくなる。

その真実が、理知的に捉えられている。

他の3編は、いずれも個性的。
どれも、見応えがある。

特筆すべきは、最初の〈女子高の怪談〉。
ある女子高で、男性教師が公然と行っていたセクハラに、生徒たちが立ち上がった。

そのムーブメントを、卒業生2人が語り下ろす。
声は加工されていないが、証言者の顔は映らず、モノクロームによる学校の写真だけが次々にレイアウトされていく。

語られているのは切羽詰まった臨場感。
だが、語り口はクールで、画像も冷静。

ヒートアップしないことで、むしろ問題の大きさを物語る。

映画ならではの秀逸な表現。

続く〈100. 私の体と心は健康になった〉は、49歳女性の、トラウマに満ちた半生に寄り添う人物ドキュメント。

性的な暴力を受け続けた彼女が、己の肉体と精神を解放するために、語り、屋外でスピーチし、そして文字を書き続ける。

その過酷な継続はすべて、呪いを解くため。暴力は、呪いを生む。暴力を受けた者は、自身の心身を呪うのだということ。

被写体の女性が毅然としているだけに、その呪いの疵の深さが浮き彫りになる。この作品も決して声高にならない。

しかし、苛烈だ。

ラストを締めくくる〈グレーセックス〉は、最も現代的で、最も普遍的な題材を扱っている。

しかも、その大部分はイラストレーションを主体としたアニメーション。

SNS的なアプローチである。
たとえば、恋愛に介在するセックスが当事者間で取り引きのようになってしまうことへの失望が、等身大のカジュアルな言葉で表出する。

絶望ではなく、失望の痛ましさを直視する丁寧さがそこにはある。

アニメは緩和であり、心遣いでもある。
切実だが、優しい。

それぞれ20分ほどだが、この順番で体験することに意味がある。

#MeTooは、運動として捉えられがちだが、それは連帯というより、個々、つまり、一人一人の人生の決断なのだ。

アフターだからこそ、初めて理解できることがある。

2021年の作品だが、わたしたち日本人にとっては、いまこそ観るべきリアルなドキュメンタリー。

観ることができて、よかった。
アフターは、これからも続く。

何よりも、それぞれに異なる観客一人一人の認識のためになる、これは映画による卓越したグループ展である。


アフター・ミー・トゥー

監督:パク・ソヒョン/イ・ソミ/カン・ユ・ガラム/ソラム
2021年/85分/韓国
英題:AFTER ME TOO
配給:ストロール
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9月16日(土)より ユーロスペースほか全国順次公開


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