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review

兎たちの暴走

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夏目深雪


女性たちの衝突や愛憎、絆をメインに据えた
痛々しくも現代的なノワール

1977年生まれの女性監督、シェン・ユーのデビュー作「兎たちの暴走」(20)は四川省を舞台に、3人の女子高生と1人の母親が巻き込まれていく事件を描いている。

シュイ・チンが1歳の時に街を離れた、母親でダンサーのチュー・ティンが戻ってきた。

シュイ・チンは美しい母に夢中になり、学校でシュイ・チンの同級生にダンスを教えるなど楽しい時を過ごすが、ほどなく彼女が闇金融から多額の借金を抱えていることが発覚する。

誘拐事件をでっちあげ身代金を貰おうとするが、物事は悪い方に転がり‥‥。

モデルをやっているマー・ユエユエの父親など、男性陣も個性的だが、基本的には女性の映画だ。

特にワン・チェン演じるチュー・ティンの美しさが目を引く。

序盤から中盤までが、久しぶりに会った娘と親密になっていき、娘の同級生にダンスを教えるシーンなど、華やかで明るいシーンが続くため、余計に中盤以降の陰惨さが物悲しく観客の胸に響く。

女性を中心とした中国映画は、この映画のエグゼクティブ・プロデューサーであるリー・ユーがずっと撮ってきたものだ。

中国で初めてレズビアンの生活をテーマにした「残夏」(01)を始めとして、「ロスト・イン・北京」(07)、「ブッダ・マウンテン~希望と祈りの旅」(10)、「二重露光~Double Xposure」(12)などファン・ビンビンをヒロインとした諸作品は、とにかく女性が生き生きとしている。

作品にもよるが、あくまで男性との関係の中で輝く女性を描くリー・ユーに較べ、「兎たちの暴走」は女性同士の関係が色濃く描かれているのが特徴的だ。

お金持ちの娘で我儘なジン・シーとシュイ・チンの従属的な関係。

美しい少女マー・ユエユエは精神不安定な父親の束縛に苦しんでいるが、思わぬ形で母娘の策略に巻き込まれ、悲劇のヒロインとなる。

それらが縦糸とすると、久しぶりに会った母への愛がだんだんと高まっていくシュイ・チンと、そんなシュイ・チンが愛しくなっていくチュー・ティンの母娘の絆が、横糸であろう。

それら2つが絡み合って、取返しのつかない犯罪へと雪崩れ込む流れが見事である。

ロウ・イエやジャ・ジャンクーら第6世代の監督は、個の視点から、映画を通して、現実の中国社会における普通の人々の生存環境を示そうとした。

また2人は、低予算のインディペンデント映画の先駆者であり、国際映画祭で認められ、世界のアート映画ファンに親しまれている。

それ以降の監督は、アート系の監督でグー・シャオガンやチウ・ションのような逸材が出ているほか、現代中国の風潮を反映した犯罪に走る若者を描いた傑作がいくつか出てきている。

優等生と不良という対極的な存在でありながら、いじめられたことをきっかけに心を通わせていく少年と少女を描いた「少年の君」(19、デレク・ツァン)は香港電影金像奨をはじめ8冠を制した。

壮絶ないじめや苛烈な受験戦争などの社会問題をエモーショナルな作風に落とし込み、胸が痛くなる作品である。

「兎たちの暴走」は、中国で弱者が暴力を振るう事件が急増していることを背景とし、実際に起きた母娘が娘の同級生を誘拐した事件を題材としている。

あくまで女性たちの衝突や愛憎、そして絆をメインに据えながら、痛々しくも現代的なノワールとして成立させた傑作である。


兎たちの暴走

監督:シェン・ユー
出演:ワン・チェン/リー・ゲンシー
2020年/105分/中国
原題:兔子暴力 The Old Town Girls
配給:アップリンク

8月25日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺
8月26日(土)より新宿K‘scinema、ほか全国順次公開


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