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「四十四にして死屍死す」

review

第18回大阪アジアン映画祭

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相田冬二


この1年ほどのアジア地域を見渡すと、
いちばん大きな変化が起きたのが香港

激動のコロナ禍においても途絶えることなく開催されてきた大阪アジアン映画祭が、今年も3月10日から10日間にわたって行われる。

長篇、中篇、短篇、ドキュメンタリー、合わせて51本。A PEOPLEでは恒例となっている、暉峻創三プログラミング・ディレクター(PD)によるガイドをお届 する。

2023年がこれまでと大きく違うのは、オープニング作品が会期の中盤で上映されること。これはあくまでも会場の都合によるものだが、結果的には映画祭18年の歴史の中で、オープニングで初めて世界初上映のアジア映画を迎えることができ、「スペシャル・オープニング作品」の名にふさわしいものとなった。

「この『四十四にして死屍死す』は、まだ香港人も観たことがない映画。映画祭の公式YouTubeでアップしている予告編には、むしろ本国からのアクセスが集中しています。本作の監督ホー・チェクティンは、前作『正義廻廊』が香港金像奨で、作品賞を始め最多部門ノミネートされた新鋭。昨年10月に劇場デビューしたばかりなのに、早くも監督第2作を完成。非常にシリアスな裁判劇だった前作から一転。今回はコミカルなタッチで香港の格差社会を風刺している。懐の深い新人監督です」

暉峻PDによれば、この作品が香港映画の現代の状況を象徴しているという。

「この1年ほどのアジア地域を見渡すと、いちばん大きな変化が起きたのが香港。新人監督が続々現れている。しかもインディーズやアートフィルムではなく、いきなりメインストリームでヒット作を撮り上げている。今年の特集企画「Special Focus on Hong Kong2023」ではコンペティション部門に入選した2本を含む計4本の香港映画を紹介しますが、そのすべてが監督第1作。新人の監督作品をピックアップしたわけではなく、純粋に作品の出来映え本位で選んで、そうなったんです。香港金像奨作品賞にノミネートされた5本のうち3本が新人監督によるもの。さらに昨年の 香港の興行収益ベストテンのうち4本が香港映画という快挙が起きましたが、そのすべてが監督作2本以内の新人。興収でハリウッド映画と肩を並べているわけで、評価、興収共に、完全に世代交代が起きています」

中国返還以後、低迷が伝えられていた香港映画だが、才能溢れる若手たちが復興させているのだ。

「興行的にも成功しているのは、今の香港人のフィーリングにすごく合っていて、現在の生活に根ざしている内容だからだと思います。ツイ・ハークやダンテ・ラムといったベテラン監督たちは中国の資本で中国本土向けの作品を撮っている。それらの作品は、香港人の心には響かないんです」

クロージングに選ばれたのは「サイド バイ サイド 隣にいる人」。

「坂口健太郎と元乃木坂48の齋藤飛鳥共演が話題の映画ですが、大阪アジアン映画祭とも縁の深い行定勲監督がプロデュースした、伊藤ちひろの監督第2作。伊藤監督は、行定作品で長く脚本を手がけてきましたが、なんと、3月に監督デビュー作『ひとりぼっちじゃない』が、そして4月に本作がロードショーされる。それぞれ異なるタッチで、ホー・ティクチェン同様、頼もしい」

なんとオープニングとクロージングが共に新鋭の作品。

「コンペの台湾映画『黒の教育』は、大ヒット作『あの頃、君を追いかけた』(2011)の主演男優 クー・チェンドンの監督デビュー作。『あの頃』のギデンズ・コーがプロデュースしており、台湾版 『青春残酷物語』と言ってもいい見応えのある映画です。また、同じく台湾の『本日公休』は、ホウ・シャオシエンの右腕的脚本家ウー・ニェンチェンの門下生フー・ティエンユーの監督作。やはりウー・ニェンチェンがプロデュースしています。さらに往年の大女優ルー・シャオフェンが20年ぶりにカムバックし、プランクを感じさせない堂々たる演技で、女性理髪店主の悲喜交々を体現しています。この2作は、行定=伊藤コンビと同じく師弟ものとしても楽しめると思います」

コロナ禍の反映にも変化が起きている。

「インドの『トラの旦那』、そして香港の『窄路微塵(きょうろみじん)』は、マスクに象徴させるのではなく、コロナ時代そのものをバックグラウンドにし、生きにくい世の中、思うように生きられない人生を見つめています。また、日本でも『ハッピー・オールド・イヤー』や『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』で知られるタイの映画会社GDH559の作品も2本上映します。GDH559は、タイを代表するメジャー映画会社ですが、とにかく脚本の練り込みに時間をかけ、年に1~2本ほどしか製作しない。だからこそ、誰が監督しているか、誰が出演しているか以上に、GDH559作品なら絶対面白い、という信頼があるブランド。コンペの『ユー&ミー&ミー』は、双子姉妹監督がおそらく自分たちの経験も交えて描いた双子物語ですが、なんと主演女優は一人二役で双子を演じています。このスリリングな撮影も見どころ。プロデュースは『女神の継承』のヒットメイカー、バンジョン・ピサヤタナクーン。特別注視部門の『OMG! オー・マイ・ガール』もGDH559らしい着眼の素晴らしい作品。GDH559ではありませんが、タイの中篇『金曜、土曜、日曜』のポップメーク・ジュンラカリンは、ポスト・ナワポ ン・タムロンナタリットと言っていい才能の監督です」

いまおかしんじ監督が傑作「れいこいるか」に連なるプライベートフィルム風の「天国か、ここ?」で、コンペ初参戦するのも話題。

コンペに日本映画が4本というのも異例。

また唐田えりか主演の「朝がくるとむなしくなる」を始め、インディ・フォーラム部門の日本映画群も秀作揃いだ。

大阪の新名所、大阪中之島美術館が会場に加わるなど、大阪アジアン映画祭は更なる進化を見せる。

充実の10日間。ホームページのスケジュールとにらめっこしながら、万全の体勢で臨みたい。


第18回大阪アジアン映画祭
3月10日(金)~19日(日)


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