*

review

死ぬ間際

text
小林淳一


第21回東京フィルメックス作品がオンライン上映

11月3日、夜。
ヒューマントラストシネマ有楽町。

映画が終了したのは、午後11時を回ったころだっただろうか。

皆が、唖然としていた。
少なくとも自分はそのような空気を感じたし、自分自身があっけにとられていた。

凄いものを見ると人は黙ってしまう。
そんなことを改めて感じさせてくれる劇場の雰囲気だった。

昨年の最優秀作品賞「羊飼いと風船」(フィルメックスタイトル「気球」)のときも、上映に立ち当たったが、その時とは違う種類の興奮が流れている。

結果として、本作品「死ぬ間際」は、第21回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した。

どこから手をつけよう。

今回、東京国際映画祭「アジア交流ラウンジ」をいくつか見た。

是枝裕和は、台湾のホアン・シーにそのロケーションがいかに魅力的かを熱く語っていた。

黒沢清は、ジャ・ジャンクーのロケーションの秀逸さを、ジャ・ジャンクー欠席の中、冷静にひとり語った。

このアゼルバイジャンの監督が描く「死ぬ間際」のロケーションといったら、いったい何なんだろう。

くねくねとたゆたう道をバイクが走る、ただそれだけで、どうやら映画はできるということをこの作品は教えてくれる。

多くの作家たちが、砂漠や海に死のイメージを求めてきたが、この監督は、すべての画面をあの世とこの世の間のように映し出す。

迷路なのか、まっすぐな道なのか。

やがて、主人公は道を往く間に何人かの女と出逢うことになるだろう。

生の映画、という人もいるだろう。
愛の映画、という人もいるだろう。

死のイメージをこれほど背負いながら、空中回転するかのように、戻っていく世界。

ヒラル・バイダロフ。

この名前は、覚えておいた方がいい。

全く個人的な体験だが、1987年「東京国際映画祭」(関連企画:東京ファンタスティック映画祭)で上映された「エレメント・オブ・クライム」で、はじめて、ラース・フォン・トリアーと出逢った感触を想いだした。

今回、「死ぬ間際」を含む、第21回東京フィルメックス上映作品(一部作品)が11月21日より期間限定でオンライン上映される。


第21回東京フィルメックス オンライン上映
11月21日(土)0:00 ~ 11月30日(月)23:59まで


フォローする