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生嶋マキ
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藤田政明
自分はどんな人なのか。
様々な事実を突きつけられました。
東出昌大を追ったドキュメンタリー映画「WILL」が2月16日(金)より公開される。リアルな狩猟風景だった。動いている鹿を撃つ、倒れる鹿をさらに撃つ。それは演技ではない、けれども多くの人気映画やドラマに出てきたあの俳優・東出昌大だ。素なのだろうか――。そこから、東出に作品に対する想いを聞いた。
「エリザベス宮地監督が僕を撮り始めた頃は、カメラを意識していましたね。めちゃくちゃカッコつけてました。山歩きにしてもスマートに、この斜面は軽いですよ、くらい言ってたんですけど、そんな場面はバッサリカットです。今回、エリザベス(宮地)監督と行動をともにしていたんですけど、本当に最初の方は狩猟がうまくいかなくて、途中で、あっ、僕は舐めてたなと気づいて。これまで単独狩猟だったので、ふたりで行動して捕れるわけがないと。だったらどうしようか、どこへ行けばいいだろうか、どう歩いたら上手くいくのだろうか、とか。とにかくヘトヘトになるまで歩き、夕方になったら山小屋に戻ってお風呂。お酒飲んでしゃべりまくって酩酊して、そんなところを思いっきり切り取られてました(苦笑)。もうちょっとカッコいいシーンを使ってくれてもいいのになって感じますけど、今回、監督が僕を含めて村人、出演者みんなを自然な雰囲気に運んでくれたのがよかったんです。こんなの撮ってたのかというシーンが満載。怖い監督、モノ作りにかけての鬼才です」
――狩猟について何度も訊かれているかと思いますが、そもそも始めた頃のお気持ちや初めて撃った経験はどんなものだったのでしょうか。
「魚を釣って捌くことはそれまでやっていたんですけど、もともと動物が好きで。野生動物を近くで見たい、自分で食べる肉を獲って食べるのもやってみたい、矛盾しているようですがそんな好奇心です。初めての猟は、雪の斜面で距離30メートル先にいた鹿ですね。撃っていい距離に鹿がいる。こっちを見てる。ここで撃っていいんだっけ、いいに決まってる。なんであいつら動かないんだろう。撃たれるのを待ってるのかな、そんなわけないよな。そんな思いが1、2秒ほどの中で駆け巡りました。発砲すると、今まで見ていた対象物から視線が外れるんですけど、すぐに茶色いずた袋のようなものが斜面に転がり落ちてきたんです。横にいた師匠が、「早く止めろ!」というので急いで止め、一生懸命とどめを刺そうとするのですが刺すところを間違えてしまい……。それまで見たことのないような鮮血の量でした。ああ、僕はとんでもないことをしてしまったんだなと感じましたね。それが6年前です」
――とある狩猟がテーマの漫画に、3頭狩るとあとは慣れていく、というセリフがあるのですが。
「その感情には慣れないです。例えば1リッターの感情があるとしたら、最初に撃った時は1リッター分の感情、2回目は300CCくらい、その次が250CC。次第に感情の量が減っていくような感覚なんですけど、これまで100頭近く獲っていますけど、やっぱり感情は無にはなりません。よく殺した動物の体積に比例して感情が揺さぶられるというんですけど、メダカとイワシ、魚だけれど、イワシの方が捌く時にかわいそうだと感じるんです。これがマグロだったらもっと、さらに毛の生えた四つ足、鹿の方がかわいそうと感じる。本当にそうなんです」
――狩猟を始めると死生観が変わるとも聞きますよね。
「やっぱり死を身近に感じるようになりましたね。でも、おもしろいもので、狩猟を始めるようになってから動物のことをより考えるようになりました。今日の取材中、街に出て撮影をしていたら、ハシボソガラスが鳴いていました。でも、あっちで鳴いているのはハシブトガラスだな、と。やっぱり動物が好きなんですよね。矛盾しているようですが、動物はかわいい。東京でもそうやっていつも自然を探しています」
――ということは、都会も山も好き?
「いや、やっぱり山ですかね。葉が落ちるのを感じられたり、キンキンに冷えた山の中での夜空は降るほどの満点の星があったり。向こうは心を打たれる瞬間が多いです。例えば都会で食べる焼肉弁当、山で撮った肉とは違います。カロリーが一緒でもまったく味が違うんです。味が違うって抽象的ですけど、安心安全の中での飯と山の中の飯。朝から晩まで働いて、ちょっと外に出れば手に入る牛丼でお腹を満たす。そういう生活を送っている人は、山の中で食べている僕らのご飯を食べてみてほしい」
――人としても、役者としてもさらに深みが出るのがありそうですよね。
「それが役者というところでは変わらないんです。役者って常に新たな目標に向かって作品をこなすという仕事でもあります。そんな生活の種類の中に狩猟が入ったとて、お芝居が変わるかといったらそんなことはないような?そもそも役者は儚い職業です。そこに、自分が獲った肉で生きるという体験が加わると、それは人生に豊かさを加えるかもしれません。特にいま、廃棄されている肉が多いし、害獣駆除といって無理やり個体数を減らす方向にあります。僕は、それは嫌です。そういう意味では一頭でも多く獲って食べてほしい。僕は牛肉も豚肉も食べるけれど、でも、買ってまで食べたくないと思うようになりました。わからないけれど、そうやって天寿を全うしたいです」
――多くの人が東出さんに癒されているのも映し出されていましたよね。
「自分に甘いからみんな安心するんじゃないのかな(笑)。でも、このドキュメンタリーに映っている僕は、監督の目線で切り取った僕。自分はどんな人なのか。見ましたけど、様々な事実を突きつけられました。でも、今の僕がずっと続くわけではないという思いもあります。この頃の僕とまた半年後の僕は違うだろうし、10年後には違う自分がいるかも」
――この映画の中で、一番思い出すシーンはどこでしょう?
「『WILL』とはちょっと離れちゃってもいいですか?狩猟を初めて2年目のことです。朝からまったく獲れない日があって、日没まであと10分という日でした。もう諦めて山を降りようとした瞬間、山の際を見上げたら鹿の群れがいたんです。こっちに気づいて一斉に立ち上がり、バーっと走り出した群れの先頭を走っていた鹿が、急にピタッと止まったんです。一気に撃ちました。落ちてきた鹿をさばいて背負ったその時、小鹿がぴーぴーと鳴いていました。あーっと心が痛みました。そうか、自分が撃ったあの子は自分の子供が逃げ遅れてると感じ、立ち止まったんだと。その半年後、僕の師匠が子鹿を獲ってきたんです。そして、こう言いました。「でっくん(東出)、前にあそこで大きな鹿をとったことあるでしょ?なんで子鹿だけがいたんだろうと考えたら、でっくん(東出)が親鹿を撃ったんだよね。子鹿は親をなくすとその近くをずっと彷徨うから」と。彷徨うって言葉が重くのしかかり、その子鹿がいくつの夜、寂しい思いをしたのだろうかと。想像するたびに心が痛いんです」
――狩猟は生きていくための手段なのでしょうが、辛いですよね。この作品で東出さんが一番伝えたいことはなんでしょうか。
「監督も僕と同じようなことを話していましたが、山奥の電波などないところには多くの豊かさがあります。こういう自然に足を運んでみようかなというきっけになってくれたら嬉しい。都会の組織で疲弊している人、文明に疲れちゃった人が、これを見て少しでも心を軽くしてくれたら本望です」
「WILL」
「WILL」
監督・撮影・編集:エリザベス宮地
出演:東出昌大、服部文祥、阿部達也、石川竜一、GOMA、コムアイ、森達也
2024年/140分/日本
©2024 SPACE SHOWER FILMS
2月16日(金)より渋谷シネクイント、テアトル新宿ほか全国順次公開